カミシモの話
冒頭から無名の拙作の提示で申し訳ないのだけれど、こんなものがある。
“アイドルだってうんちする 総理大臣もうんちする 犬も猫もうんちする いっしょに食べて 仲間になろう”(『みんなうんちする』より、作詞:青沼詩郎)
極端な話、ヒトは筒である。口から入れて、おしりから出す。クチとシリを両端とする「筒」は、生き物の多くにみられる共通点。文化背景が違う人同士でも通ずるし、ヒトとイヌ、ヒトとネコなど種が違っても通ずる点だ。
小室等の楽曲『おしっこ』に初めて出会ったとき、(並列するのは)おそれ多いのだけれど冒頭に掲げた拙作のことを思い出した。共感のもと、心の中で私はニヤリとしてしまった。
いくら共通点といえど、立場も何もかもが違う人と居合わせたとして、カミシモの話さえあれば打ち解けられると思ったら大間違いだ。TPOを間違えれば、寒いことになる。カミシモの話は、偉大なる普遍であると同時に諸刃の剣なのだ。繊細な問題なのである。一方で、それが許容される空気を掴んで用いるぶんには、何もかもが違うヒト(種)同士の距離を一瞬で詰め、共通の笑いをもたらす可能性も秘めている。このクチやシリの奥にあるのは腹のウチである。
小室等『おしっこ』発表の概要、名義など
私は楽曲『おしっこ』を、小室等のアルバム『プロテストソング2』(2017)で知った。音楽のサブスクアプリでこのアルバムと出会った。作詞(作詩)は谷川俊太郎。詩人の彼だけど、歌詞を担った作品にもその名が目立つ。私の好みではビートたけしが歌った『たかをくくろうか』が印象深い。極めて個人的な余談だけど、私の通った東京都・西東京市にある住吉小学校の校歌の作詞者も谷川俊太郎。私の記憶と接点の多い詩人を一人あげるなら、間違いなく彼が筆頭だ。
小室等が歌った楽曲『おしっこ』の発表について辿ってみる。音楽ユニットまるで六文銭のように(Wikipedia>まるで六文銭のようにへのリンク)のアルバム、『はじまりはじまる』(2007)に収録されていると知る。まるで六文銭のようにのメンバーには小室等が含まれている。小室等がアルバム『プロテストソング2』で発表するよりも、まるで六文銭のようにの方が音源の発表が先だ。
旬報社の単行本『プロテストソング』(著:谷川俊太郎・小室等、2018年)によれば、作詩は2004年だという。小室等による作曲の時期がいつなのか不明。詩先(詞先)で生まれた楽曲なのだろうと想像する。
『おしっこ』を聴く
小室等『プロテストソング2』収録『おしっこ』
ライブ感いっぱい、緩急と表情に富んだ演奏。歌声があたたかで奥深い。アコースティック・ギター、ピアノ、小室等の歌のみの編成。歌詞“殺す”と歌う瞬間のゾッとさせる歌唱のニュアンスが絶妙。歌詞に“銃”と登場するときには発砲をイメージしたようなクラスター(房)風の音を出すピアノ。握りこぶしを鍵盤に向けてぐしゃっとおろしたようなトーン。
間奏のソロなど身軽で流暢・自由で滑舌に優れたピアノは小室等のボーカル表現と相まって聴きどころに富む。曲のビートを止めてしまって、ぴっ、ぴっ……と音が断続的に……おしっこみたいだ。
まるで六文銭のように『はじまりはじまる』収録『おしっこ』
テンポがゆったり。男声・女声の混成は「おしっこ」という主題の普遍性に相槌を添えて感じる。多様な「集団」が歌うからこその説得力がある。もちろん、小室等ソロ版ならではの説得力の高さを絶賛した上で。
男声・女声がオクターブ違いで一緒に歌詞を歌ったり、ハーモニーパートを歌詞で歌ったり、ハミングなどで発声による背景への描き込みをほどこしたりと、空間を適確に用いた彩りのあるアレンジ。伴奏はアコースティック・ギター2本程度か、シンプルな編成。複数の歌唱パートが活きる。
「輪」や「座」を感じる、空間を切り取ったスケッチ風の音像が優しい。主題「おしっこ」の即席性、ある意味TPOを問わない遍在性を思わせるアンサンブル。
無防備のお互いさま
「おしっこ」の最中、ヒトは無防備。イヌももちろん無防備だろう、ある程度。共通する「無防備」の条件下、考えることは普遍的になるのかもしれない。
銃を持っていたら、ヒトは気が大きくなるだろうか。気が大きくなっているときに考えることは、無防備なときに考えることと、だいぶ違ってくるのだろうか。
銃はチカラの象徴だ。ヒトのありのままの身体能力を凌駕した暴力を、銃を持つ者に授けてしまう道具。自分のありのままの体(身体)が、何かを所有したり身につけたりすることで、考え方まで変わってしまうことがあるかもしれない。そういう状態にあってこそ、思いついたり起こしたりする行動がきっとあるのだろう。道具は、ヒトの発想を、よくもわるくも伸長するのだろう。
寝食や排泄、すなわち生活を共にするのは、無防備な状態をさらしあう仲といえる(もちろん、ピリついた例外もあるかもしれないけれど)。同じ屋根の下で生活すれば、その意識は見えやすい。
「地球というひとつ屋根の下」といったスケールでおのれを観察しあい、認知し、共存する意識をお互いに持っていられたら、みんなが「ただのいのち」をもういくぶん、快適にまっとうできやしないかしら。
「お違い」の認識を「お互い」に改めさせてくれるキーワード、そのひとつが「おしっこ」かもしれないよ。
青沼詩郎
『おしっこ』を収録した小室等のアルバム『プロテストソング2』(2017)
『おしっこ』を収録したまるで六文銭のようにのアルバム『はじまりはじまる』(2007)
小室等のアルバム『プロテストソング』(1978)『プロテストソング2』(2017)収録曲の詩とコードメロディ譜、谷川俊太郎と小室等の対談を収めたユニークな企図が美しくまとまった一冊、『プロテストソング』(著:谷川俊太郎・小室等、旬報社刊、2018年)。左から読むと楽譜、右から読むと詩と対談。真ん中に奥付。
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『おしっこ(小室等の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)