CMソング、記憶に残るものが数多あります。記憶に残るというか、記憶を引き出すきっかけとなる何かに触れるとちゃんと思い出すのです。シチューを見たらこんな曲を思い出すかな。

お家へ帰ろう 山崎まさよし 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:山崎将義。山崎まさよしのシングル『僕はここにいる』(1998)収録。「ハウスシチュー」CMソング。

山崎まさよし お家へ帰ろうを聴く

この曲を使ったシチューのテレビCMが放送されていたのを実際に視聴した記憶があります。おあつらえ向きといいますか、これ以上ない。シチューのCM曲で、シチューを食べよう・作ろうと歌詞のなかでストレートに呼びかけているのですから。ほっこりすると思いましたし、シチューを食べたい気持ちになりました。当時、まだ私は実家に住む青少年でしたから自分の手でつくるシチューを今晩のメニューにしよう……とまでは考えませんでしたが。

弾き語りで十二分に成立する音楽性です。左に定位したギターのトリプレットの伴奏。フィンガーで演奏する複数の弦の弾き分けが質感をなします。真似したらもつれてしまいそうですがはっきりした音の質量感・粒立ち。面取りした具材はとろける流動体のなめらかさにも負けず煮崩れていません。

アコースティックベースのような深い余韻は、ボーカルで表現します。「ドゥ」という、バスドラムにマイクを立てて収録した音を凌ぐような迫力あるサウンド。舌が口の中の上顎から離れる衝撃をマイクの近接効果を活かして収録するのか、アコースティックベースとキックドラムをコンビネーションさせるよりも強靭ではっきりしたサウンドに感じます。

オブリガードするギターがささやか。グロッケンシュピールがかろやかな音色で雪のひとひらが視界をかすめるみたいです。リン、リン。と2回1組で鳴る鈴(スレイベル)の音色もささやか。雪の降り始めみたいですね。バックグラウンドボーカルの描線が夜空のような清涼感を添えます。

コンガのパカパカとしたアタックさえも飲み込んでしまいそうなボーカルベースの質量感が私の注意を引きますが、コンガはコンガで根菜類のような泥つきの野趣あるサウンド。シチューのトロトロ・ねっちり感をリズムギターと相乗して叩き出します。

リードボーカルの印象的なサビ“お家へ帰ろう”のメロディは跳躍音程と経過的な短2度、長2度の組み合わせが巧妙な印象です。フェイクたっぷりな山崎さん特有の演奏の個性がそのままテーマ(シチュー)とかけ合わさってメロディになったような……「おうちへ」の跳躍音程の活発な動き感と「かーえー、ろうWow〜」みたいなの言葉尻のねっちりした粘度の同居が印象に残ります。山崎さんの声とメロディライン、ギターぜんぶがひとつで特有の思想感情のあらわれです。こういう主人公が実際にいそうに思えます。

山崎まさよし『お家へ帰ろう』サビメロディ冒頭の採譜例。滑らかさとクセを兼ね備えた彼らしい独特のモチーフです。

お家へ帰ろう シチューを作ろう

窓から漏れてく白い湯気が

星屑の隙間を埋めてく

お家へ帰ろう シチューを食べよう

ほんの少しだけ 手間かけて

この想いいつか雪になれ

『お家へ帰ろう』より、作詞:山崎将義

空気のきれいな地域でみる星空は解像度がちがいます。日本の大都市ではむずかしいかもしれない。広大な自然の中で見上げる星空は、湯気にも似るくらい、もくもくと立ち昇る気体のように見えるかもしれません。鍋ぶたを開けたらメガネが曇ったりして。

寒い季節だったら窓は閉めてるだろうから湯気が窓から漏れるかな? なんてツッコミをふと思いついてしまう私の無粋。匂いとかだったら換気扇を通して外まで漂うかもしれません。そういう暖気の気配が窓から漏れている……という想像を聴き手のなかに膨らませる愛嬌があります。

部屋のあかりも、家から漏れる匂いもなんだか暖かそうでいいなぁ……と。一人暮らしだったら寂しくなちゃうかな? シチューをつくって食べれば心に寄り添う誰かを思い出せそう。

青沼詩郎

参考Wikipedia>僕はここにいる (山崎まさよしの曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>お家へ帰ろう

山崎まさよし 公式サイトへのリンク

『お家へ帰ろう』を収録した山崎まさよしのシングル『僕はここにいる』(1998)

『お家へ帰ろう』を収録した山崎まさよしのB面集『OUT OF THE BLUE』(2005)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『お家へ帰ろう(山崎まさよしの曲)ギター弾き語り』)