アクロバティックで自然な引力
きわめて意外でありながら、もうそれしかないと思える程に自然で流麗なコード、響きの展開。大胆で絢爛で紳士なリードボーカルメロディ。鳥や虫の鳴き声、水がしたたる音や波の音などの環境音がフィットしています。自然のみせるハッとするような景観、その奇跡や必然の神秘を思わせる音楽上の意匠、サウンドの審美に驚嘆のため息が漏れます。転々と思いもしない境地(調性)に連れて行かれるのに、最後の最後には元いた調に戻って来るところがアクロバティックでありながら自然な引力により戻された感覚です。
私がこの曲に聞き覚えがあるのはテレビのコマーシャルか何かだったと思い、検索するとオンワード樫山のブランド「23区」の1999年のCMであるようで、中山美穂さんが出演したものでした。
Overjoyed Stevie Wonder 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Stevie Wonder。Stevie Wonderのシングル(1986)、アルバム『In Square Circle』(1985)に収録。
Stevie Wonder Overjoyed
非常にロマンチックです。スティーヴィーの精神構造がもう大自然で宇宙で、心に自由を持っている人なんだなという気がします。そんな人に書ける・構築できる音楽です。
ぽいん……と水滴の音。ちゅちちちち……と鳥の声がリズミカルです。自然の音を自然なままにただ貼り付けているのでなく、意図のあるリズムを奏でているように聞こえます。自然物はそもそも歌を歌っているのだね……とそんな気にさせます。
スティーヴィーの歌のふしづけが細かいです。装飾やフェイクが達者。エンディングに向かう前に、そもそも転調がふんだんに含まれた曲がさらに全音上の調に上がり、そのうえでボーカルのメロディはフェイクで崩されて音程は最高潮に達します。落ち着きのある曲調でありながら、熱のうずまく昂り:ハイライトが楽曲のなかで演出されます。肩のなだらかな高嶺みたいですね。霊峰・富士山を思い出します。
雅なサウンドはナイロンギターの音色。複数のトラックでギターが入っている感じがします。
ピアノの音が和音やリズムの基礎の中心的役割で、ちょっとコーラスがかかったような響きの輪郭が豊かです。
ベースがフレットレスタイプでしょうか。ぐもーんと、独特の描線と輪郭のぼけた(いい意味で)ような音色でフレットレスといえばこの音だよね、とリファレンスとして記憶にしまっておきたいサウンドです。
種々のパートを接着するのがストリングスの音色。要所でハープがぽろんと駆け回る風のようです。
参考 歌詞・意訳掲載サイト 世界の民謡・童謡>Overjoyed 歌詞と和訳 スティーヴィー・ワンダー 鳥の鳴き声や環境音が用いられたスティーヴィー・ワンダーの代表曲
比喩のコンテクストの深さや押韻、言葉の響きの反復を尊重しているであろうスティーヴィーの歌詞面でのソングライティングの特長が察せられ、意訳や原詞を眺めていると悟るものがあります。
感情を直接剥き出しに押し付けるような言葉ではなく、あくまで音楽の響きの移ろいにそって、感情を言語と言語がなす景色・心象に雄弁に語らせるような作詞が魅惑かつ自然な審美に満ちています。
人それぞれでいいと思うけど、やはりスティーヴィーは天性ですね。
青沼詩郎
参考Wikipedia>オーヴァージョイド、イン・スクエア・サークル
『Overjoyed』を収録したスティービー・ワンダーのアルバム『In Square Circle』(1985)