まえがき
サーフロックミュージックを豊富に参照するのに主題はカナヅチ(泳げない君)という痛烈な皮肉にクラクラ来ます(熱中症?)。タイトルのネタ元の『およげ!たいやきくん』ももちろんオマージュし、ギターの名手よ、どこまでものさばれ!という願いを感じるロック史名曲『ジョニー・B.グッド』のフレーズをオマージュしてカナヅチを鼓舞しますが水難事故になるぬことを切に祈ります(もうなっちゃって竜宮城まで視ちゃう始末?)。
泳げカナヅチ君 大滝詠一 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:大瀧詠一。大滝詠一のアルバム『NIAGARA CALENDAR』(1977)に収録。
大滝詠一 泳げカナヅチ君(『NIAGARA CALENDAR ’78』収録)を聴く
カナヅチは無謀に飛び込んだりしては決していけないと思うのですがJa-Boomしてしまいます。挙句のはてには竜宮城など視てしまってはこれは三途の川を渡りかけてしまったのかと思うとカメに助けられて命拾いしたのでしょうか……歌詞のテキスト量は多くはありませんが長編映画にしてほしいくらいに聴き手の想像力を刺激します。『河童のクゥと夏休み』原恵一監督や制作チームあたりが映画化してくれたらすごい胸ときめく名作になるのでは……などと妄想が膨らんでしまします。
ほぼ全編、海の波の環境音が鳴っています。ステレオで空間が広がる、気持ち良い音を背景に。
オープニングの「たいやきくん」オマージュのシンセはあえてちょっと安易な感じのサウンドがツッコミを誘うボケに思えます。
声のトラックが多くて、真ん中でウーと保続音を演じながら、左右に「泳げ泳げ 泳げカーナヅチくん……」などと歌詞を歌唱するトラックがかけあい、広げます。
コーラスのシメのフレーズはゴー・カナヅチ・ゴー。ゴージョニーゴー、ゴー! ジョニー・B.グッドオマージュ。ネタ元のジョニーくんはギターの名手ですが、カナヅチくんはこれっぽちも泳ぎの名手じゃない。海底へGo!ってこと?溺れ死んじゃうよ! カメに助けられる名手ということでしょうか。なんとも、人に手を差し伸べられることで世を生きていく星に生まれたとしか思えない人が世の中にはしばしばいるように思うので、あながち逸脱思考とも思えません。人とともに生きていく人徳、憎めない魅力ってあると思うのです。
ベーシックトラックや声のトラックは比較的ドライな音像なのですが、ビッチビチにうるおったスプリングリバーブの音色のエレキギターがずばり主役か。泳げないと言っているのに、サーフロックの名フレーズをこれでもかとオマージュします。私が特に気になった(気に入っている)のはディック・デイル「ミザルー」、アストロノウツ「ムーヴィン」オマージュです。歌詞のパートを消化してから、これらのサーフミュージック・ロック万博まつりが続きます。
A♭メージャーではじまって、途中でギターリフの参照(オマージュ)にやり良いようにかしれっとEmスケールにフィットした調に転調して、それ以後のコーラスをA(ナチュラル)メージャーで展開。和声や調性の地平の高さを、音楽上のストーリー展開・進行にあわせて自由に乗りこなしているあたり、まるで手練れのサーファー。カナヅチでもサーフィンは上手い!なんてことある?!
音楽名人の笑いと演芸の祭典みたいな傑作コミックかよ。
青沼詩郎
『泳げカナヅチ君』を収録した大滝詠一のアルバム『NIAGARA CALENDAR』(オリジナル発売年:1977)。1978年(カレンダーなので1977年末発売)版と1981年のリミックス版の両方を収録した”ナイアガラ・カレンダー 30th Anniversary Edition”。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】謳歌したい夏 泳げカナヅチ君(大滝詠一の曲)ピアノ弾き語り』)