まえがき
清涼で強靭な歌声が永遠に夏を讃辞するかのよう。Ⅱm、Ⅴ、Ⅰ、Ⅵmの循環の定型をコーラスの導入に、セブンス・ナインスや掛留の響きを豊かに盛り込み、かつ要所への意外な和音で都会的な印象と開放感を両立します。アルバムバージョンとシングルバージョンで曲の魂柱は尊重した印象がありつつ注意して聴くと細部の味わいや目立って聴こえるパートが違ういますしエンディングに至ってはまったく違う展開が待っているのでリスニングの楽しみも尽きません。
RIDE ON TIME 山下達郎 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:山下達郎。山下達郎のシングル、アルバム『RIDE ON TIME』(1980)に収録。
山下達郎 RIDE ON TIME(アルバム『RIDE ON TIME』2002年デジタル・リマスターCD収録ボーナストラックより、シングル・ヴァージョン収録)を聴く
これ、荒波をあまりにもスムースに乗りこなしていますがあらためてしみじみサビのボーカルメロディの音形に注視すると非常にアクロバティックな動きをしています。主題のRide On Timeを唱えた直後、“さまよう想いなら”のところの音形の冒頭の「さまよ」の瞬間など、長7度の跳躍でガクっと音程が下がります。そして「ようおもー」のところを取り出すと、キレイに3度の跳躍を積み重ねている。ベース的にはⅤのドミナントの音が鳴っているんですが、その上でⅣM7の和音のアルペジオをボーカルでやってのけてしまっているみたいな、4和音、あるいはテンションのある音程を点々と精確に貫いていきます。アクロバティックなのに非常にスムースな両極端の同居を感じるのは、そうした一瞬一瞬の跳躍あるいはなめらかな3度の積み重ねがサビ冒頭のまたたく瞬間に起きていくから私が抱く印象です。
そしてボーカルの跳ねっ返り具合、シャウトに片足突っ込んだような歌唱の激しく熱いニュアンスと、冷ややかな平静さ、クールな印象が音楽の展開にあわせて豹変していくさま、一曲で、それもボーカルトラックだけに注視して聴いてもなんべんでも風味が立つ耐久の所以です。
ベースが緻密すぎる。ベカベカとクラヴィネットを想起させるような、暴れるスラップの音色を完全に支配しきった曲芸。チキチ、チキチ、とドラムスのハイハットの音色も非常にコントロールが高等で最上のダイナミクスで分割とグルーヴを添えます。
神から目線でふってくるかのような定位感の浮遊した音質でバックグラウンドボーカルの緩急の効いたリズムがアクセントし楽曲のビート感の手綱を助けます。吉田美奈子さんの実演です。
カリンバがエキゾチックな趣で、この海がつなぐ遠い大陸にある血潮を指先でつまみ出してコラージュ。なのに、こちらのカンバスに完璧なまでに溶けています。
左右それぞれに定位を振り分けたギターがまた緻密。リズムを補完しあうかのようでもあり喧嘩を売りあっているかのような、それも職人芸の緻密さを競って戦っているかのような理知・理性。左のクリーンな音色のすべるような滑らかなフィンガリング、リズム。右はちょっとワウなど効かせたトーンもクロスしてくるようでしょうか。
サックスの音色も理性あるかと思えば急に荒々しく揺さぶり陽光を乱反射する海岸の波みたくぎらつき、寄せては返します。
1個の楽曲の独立性の観点でここまでではシングルバージョンを選んで聴きましたが、アルバムバージョンは長くてサビのリフレインをたっぷり聴けて、アカペラのエンディングが聴けて、またテンポもわずかにゆったりで分割の解像度の味わいの違いなど堪能できます。ボートラつきのアルバム『ライド・オン・タイム』で両方どうぞ。
刻々と輝き、色彩を変える海辺の景観の移ろいが永遠に真空パックされているよ。あまりのその壮麗な響きとビートの快適な推進力から勝手ながら私が海を想起してしますが、曲のなかで直接的に海とかいった単語をひけらかすでもありません。“青い水平線を”……の歌い出しが千金です。
青沼詩郎
参考Wikipedia>RIDE ON TIME (山下達郎の曲)、RIDE ON TIME (山下達郎のアルバム)
『RIDE ON TIME』を収録した山下達郎の同名のアルバム(1980)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】永遠の清涼 RIDE ON TIME(山下達郎の曲)ギター弾き語り』)