Homeへの帰還

24分程度のテレビシリーズでもなし、90〜120分くらいで完結する長編映画サイズでもなし、1話につき40〜50分くらいの独特の尺からなる間が私をひきつけます。かまやつひろしファンの私はこの楽曲を数年前から認知していましたが、最近(この文章の執筆時:2026年2月)アマゾンプライムでこの楽曲をエンディングテーマとするオリジナルビデオアニメ『戦闘妖精雪風』が視聴可能になっているのに気づき、1話視聴した次第です。

「シーラーレー」(in Gメージャー調、固定ド表記)というシンプルな音形のピアノのモチーフが、空を舞い戦う登場人物たちのシンボルのようです。ほぼⅠ、Ⅵm、Ⅳ、Ⅴといった極めてシンプルな和声のみを使ってゆっくりと響きを推移させながらも快活なテンポとシンプルなビートで悠然と空を滑るように、主人公たちの一瞬を永遠に引き延ばす曲想が魅力的。ムッシュかまやつの歌声は素朴で温かみがありながらも、案外男声としてはポジション・キーが高めなのも彼の独特の個性・質感の一部です。

ゆったりと進行するダイアトニックのメロディとハーモニーが終始穏やかですが、途中でポンとBメージャー調に唐突に転調し、機体(主人公たちの乗る戦闘機……)の天地方向がひゅるっと翻ったように私の平衡感覚を揺るがし、ドッグファイトに一瞬でけりがつくようにたった2小節間に凝縮された和声の忙しい動き(|F#m, G#m|Am, D|)と移勢のリズムをもって元のGメージャー調に帰結します。

RTBという一見謎なタイトルはReturn to baseを意味するコードだそうで、任務から基地への帰還を宣言するときに使う表現のようです。劇中1話でも登場人物のせりふに“RTB”のフレーズがさらっと出てきたのが記憶にあります。空軍、戦闘機などを扱った映画・アニメ・文学などに親しむ人に慣用表現なのでしょうか。基礎知識として備えておいて、色んな作品に親しむのもよいでしょう。

本曲『RTB』の作曲者に名前をつらねる三柴理さんはくるりの『儚くも美しき12の変奏』収録曲『セコイア』において、優美きわまるピアノの演奏で参加されています。三柴さんの独特なキャリアや彼と接点のあるミュージシャンに注目していろいろ聴いてみるのもまた痛快な空を行く解放感です。

RTB(ムッシュかまやつが歌ったOVA『戦闘妖精雪風』のエンディング曲)曲の名義、発表の概要

作詞:多田由美・横山武、作曲:三柴理・Clara。2002年から2005年にかけて全5巻が発売されたOVA『戦闘妖精雪風』のエンディングテーマ。楽曲はムッシュかまやつ名義のシングルとして2002年9月4日に発売。

ムッシュかまやつ『RTB』を聴く

左をピアノが、右がしゃわしゃわと非常に豊かなサウンドのアコギのコードストラミングが支えます。シーラーレー……のピアノモチーフは左とは別トラックで中央に入れているためか、独自の描線の明確な輪郭が尊いです。

ベースとドラムの実直なエイトビートに乗っていますが、うわものの交雑した風合いが絶妙です。ポエー……と純真な音色でポタメントするシンセサイザーの音色が可愛い。チャラーンと華やかなれど軽やかな音色のオートハープがアクセント。そしてミョーンと減衰しない描線はジェットエンジンの軌道を一定時間空に浮かべる飛行機雲みたいなアコーディオン。トレモロサウンドでゆらめくエレキギターの慎ましやかなオブリガード。間奏の折り返しのところからは強く質感豊かなエレキギターの音色が中央定位を陣取ります。

最後のサビのリフレインのところでもし仮にポンと長二度転調していたらJPOPの典型あるあるな感じになる……などと妄想しますがこの曲ではそれをしません。長く悠然と、空を漂っていく「変わらなさ」、どこかにあるHomeを、すでに心のなかにあるはずのHomeを、それなのにいつまでも地に足をつけることなく空を滑る己の心の自由と孤独を謳歌するGメージャーの響きがわしゃわしゃごうごうと風の音の擬態を続けながら遠くフェイドアウトしていきます。主題のRTB(リターン・トゥ・ベース)が効いてきます。その帰るべく基地”Home”さえも茫然と空中に幻視しているようなさびしさと冷たい温かさが同居していて綺麗です。あなたは空へと還る風。

青沼詩郎

参考Wikipedia>戦闘妖精・雪風

RTB 歌詞 – 戦闘妖精雪風 – アニソン!無料アニメ歌詞閲覧サイトへのリンク

SATOSHI MISHIBA OFFICIAL | ピアニスト三柴 理のオフィシャルサイトへのリンク

かまやつひろし(ムッシュかまやつ)のシングル“『戦闘妖精雪風』エンディングテーマ「RTB」”(2002)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『RTB(ムッシュかまやつが歌ったOVA『戦闘妖精雪風』のエンディング曲)Homeへの帰還【ギター弾き語り・寸評つき】』)