流氷の彼方に ソルティー・シュガー 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:中島茂男。ソルティー・シュガーのアルバム『ソルティーシュガー茶歌集<走れコウタロー>』(1970)に収録。

ソルティー・シュガー 流氷の彼方にを聴く

ペケペケっとした軽い音色の12弦ギターをアップストロークした音色のオープニング。Emの和音を浮かべて、アウフタクトでフレーズを「レレミ〜」と綴り始めるかと思えばテープの編集なのかバッサリした一瞬の音響のつげ目を経てメインのベーシックリズムに接続していきます。

真ん中にくだんのペケっとした音色のギター。右と左にもそれぞれギター。アルペジオやオブリガードの波をつらつらと浮かべるギターが左、躍動するリズムをストラミングで刻むのが右。ボーカルメロディの抑揚が高まっていくあたりではいつのまにか両方のギターがストラミングしています。

やや奥まった深いところからアコースティックのベースが立ち上がります。1拍目と2拍目の裏と4拍目に打点をおく動きのあるパターンを基調とし、足元を温めます。

ボーカルがダブルになったり、リードと分かれて「ウー……」とハミングを浮かべたり、字ハモ(同じ歌詞で別の音程を歌ってハモる)したり。エンディング付近“北の大陸想いも凍る”のあたりで最もボーカルの層が厚くなり、複数の線で布陣を広げます。どこか寂しげで、歩み寄りきれないはかなさと哀愁が漂うボーカルの群像です。

北方領土問題の概観 今すぐおさらい

今は恨みのオホーツク

海に浮かぶ見えぬ国境

誰が定めた非情のしきり

やりどころなき怒りに燃えて

見知らぬ国に夕陽が沈む

『流氷の彼方に』より、作詞:中島茂男

北方領土問題の当事者の目線を描いているのでしょうか。

北海道標津町のウェブサイトが北方領土の歴史の概観を抽出しています。

参考 北海道標津町北方領土の歴史占領された島々

「ソ連軍侵攻図」を含んだファイルも公開されており、視覚的に領土の地理関係や侵攻の段階が把握できます。

北方領土が占拠されたのが1945年、8月15日のポツダム宣言受諾後。8月18日から9月5日になされたといいます。

ソルティ・シュガー『流氷の彼方に』が発表されたのは占拠が起きた1945年から25年になる1970年です。

独立行政法人北方領土問題対策協会のウェブサイトも「3分でわかる北方領土問題」を公開しており、すっきりと見やすい快適なウェブデザインで北方領土問題の経過を紹介しています。

北方四島のイメージ

“北方四島は、戦後、ソ連に不法占拠され、日本の領土にもかかわらず日本人が自由に行き来することができません”

“1945年8月9日、ソ連は、当時まだ有効だった日ソ中立条約に違反して対日参戦し、日本がポツダム宣言を受諾した後の同年8月28日から9月5日までの間に、北方四島すべてを占領しました。その後、現在まで、ロシアによる不法占拠が続いています”

“当時四島に住んでいた17,291人の日本人は、約半数が自力で脱出し、残りの島民はソ連により強制的に退去させられ、サハリン(当時の樺太)の抑留を経て日本に送還され、故郷を追われました。現在四島に居住する日本人は一人もいません。”

“今もつづくロシアの占拠にはどんな法的根拠もありません”

“歴史上・国際法上のどの根拠をとってみても、北方領土に対するロシアの不法な占拠は明らかです”

独立行政法人北方領土問題対策協会ウェブサイト「3分でわかる北方領土問題」より抜粋して引用

北方領土の歴史や経過について曖昧な把握だった私に輪郭のある概観を独立行政法人北方領土問題対策協会のウェブサイトが与えてくれます。

島から北海道本土に渡った人……たとえば国後島を追いやられ逃げ延びて北海道本土・根室でしかたなく経過を見守りながら生きる人がいたとしたら……

国後島は、根室からも見える(条件があるかもしれませんが)といいます。位置関係を考慮すると、夕陽が国後付近側に沈むのを根室から観察することもできるかもしれません。その国後の方向はもと自分たちが暮らすホームなのに、どういうわけか強制的に「見知らぬ国」みたく分断されてしまったとしたらどうか。誇張(というか、解像度の低い私の想像)を承知でたとえてみましょう、帰りたい自分のホーム(島)を毎日眺めさせられながら、帰島を許されずに対岸でいつまでも解決の見通しもなく生活を強いられる人の気持ちを想像したら……。

あるいはサハリンに勾留されている最中の人の立場だと仮定すると、ソルティー・シュガーの『流氷の彼方に』が歌う“見知らぬ国に夕陽が沈む”は、サハリンからみて西にあるロシア(すなわち、見知らぬ国)本土側に夕陽が沈む様子かもしれません。

流氷飛びかう渡り鳥

鳥をうらやむわけではないが

私も欲しい自由の翼

なすすべはなく今日も暮れる

想いよ届けオーロラ越えて

かえす波に祈ってみても

北の大陸想いも凍る

『流氷の彼方に』より、作詞:中島茂男

流氷片ひとつひとつが、北の島々の象徴でしょうか。渡り鳥にはビザもパスポートもありません。国境も持たず、身軽に行き交います。

季節を越えてどこへ行くかと思いきや輪廻しまたあらわれる流氷。凍った想いに訪れる春をいつまで待てば良いのか。こちらから春に走り寄っていけば触れるのでしょうか。人の想いまで凍らせた覚えはないはずです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ソルティー・シュガー

参考歌詞サイト 歌ネット>流氷の彼方に

『流氷の彼方に』を収録したソルティー・シュガーのアルバム『ソルティーシュガー茶歌集<走れコウタロー>』(1970)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『流氷の彼方に(ソルティー・シュガーの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)