哀愁と嘲笑
ペンタトニックスケールで寒さ、失恋を明るく、楽観と哀愁で描く慈しみ、寛容さが尊いです。“会って間もない君と恋に破れた男が”の歌詞フレーズを定型に、前後に変化をつける構成による3番までの唄です。
左にスティールギター。右のワウギターがコミカルで『ケメ子の歌』(ザ・ダーツなどが実演)みたいなノベルティ感もわずかに漂います。誠実に憐れみの笑いを取りに行くようなアティテュードを感じます。ビブラフォンの音色はまるで辞世の句、デパートの閉店音楽のように、「また会おうぜ」と名残惜しさと希望を提示して思えるのです。
淋しい二人 加山雄三 曲の名義、発表の概要
作詞:岩谷時子、作曲:弾厚作。編曲:森岡賢一郎。演奏はロイヤル・ポップス・オーケストラ。加山雄三のシングル『ぼくのお嫁さん』B面、アルバム『世界のどこかで』(1969)に収録。
加山雄三 淋しい二人(アルバム『世界のどこかで』収録)を聴く
堂々の質量ある歌唱。キング・オブ・ポップの称号を私個人からはお贈りしたい気持ちです。こんな人100年に一人現れるかどうかではないでしょうか。声がどこに響いているのかな。頭蓋骨、胸、腹、体全部が強調して空間(スタジオやホール)と奇跡めいた共鳴をしてはじめて得られるような歌声ではないでしょうか。保続したトーンからフレーズ尻にかけてかかるビブラートが極上です。こんな男にならついて行きたい。
まんなかにリードボーカル。右にワウのかかった効果的なギター、ビブラフォンに、ドラムも右寄り定位。左にはスチャっとかろやかなエレキギター。これが右に著しく寄ったドラムと対になり、リズム要素における左右のバランスをとります。左にはアコギのストラミングもいますね。これがなおさら、右のドラムとのバランスとりに貢献します。奥ゆかしく浮き上がるスティールギターのポルタメントも左寄りにいます。なかなか、ギター類の要素が豊かです。
恋に破れたばかりのオトコの刹那を描くようでしょうか。そんな失恋相手とは別の会ったばかりの誰かさんに、どうせおいらぁひとりだ、ついてくるなら勝手にしておくれと嘆く。自暴自棄や攻撃的なそぶりはみじんもありません。やれやれまた失恋しちゃったぜ俺はまったくしょうがないね。軽く笑っておくんなまし。あんたも恋わずらいには気をつけなさいな。みたいな、会ったばかりの誰かさんへの、今はまだ他人同士としての最低限の礼儀と紳士な態度を感じさせるところがこの曲のステキなところです。3番で、恋愛が成就しなかった(したかもしれないが永続しなかった)ことを「やせた月」のモチーフで演出する作詞が絶妙です。
会って間もない君と、いつか満ちた月を見上げる日が来るのかな? その際は祝福してやりたくなる友愛をこの主人公に勝手に私は感じてしまいます。かっこいいね。どんな歌を歌っても永遠に若大将。
青沼詩郎
『淋しい二人』を収録した加山雄三のアルバム『世界のどこかで』(1969)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】哀愁と嘲笑『淋しい二人(加山雄三の曲)』ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)