散歩・3歩上位の未知数
リラックマのために特化したクリエイティブ。サビ前に“教えてリラックマ”と固有名詞がフィットされ現実のアーティストくるりがおとぎ(ファンタジー)の主人公リラックマの世界と接合を図ります。
のどかでのほほんとしたイメージのリラックマ、そして作品の世界に丹精な演奏と編曲の質感、「さんぽ(散歩、3歩、あるいはそれ以上の広義の“SAMPO”)」の主題の通り左右の足をたえまなく交互に運ぶ動きをボーカルメロディで表現してみせたサビ、Ⅰ→Ⅲ(メージャー)のハーモニーのわき上がるわくわく感が秀逸かつ表層のイメージはあくまで「イイ歌」。
奇を衒わず濃密で端正(丹精)なのに表層がのどかで万人にやさしいユニヴァーサルデザイン的なジェントルな態度なのはくるりの近作の職能の高みであり、くるりの主たる作詞作曲者:岸田繁さんのデモ音源を丁重に扱うことを基盤に制作されたという2026年2月11日リリース15thアルバム『儚くも美しき12の変奏』にも通ずるポリシーや質感がうかがえ、2026年現在においてあらためて「リラックマ」一体の岸田さんの劇版ワークやくるりの主題歌ワークを再聴して発見する・気づく魅力も多く大きいものと思います。
水前寺清子さんが歌った世紀を飛び越える名曲『三百六十五歩のマーチ』の不朽の歌詞フレーズの断片を引き継ぎ新世紀解釈する趣向ととらえるのも、音楽の文脈に身を浸す放浪者:くるりの態度として深くうなずけるところがあります。
余談ですが、2026年で30周年を迎えるくるりはポムポムプリンやポケモンとだいたい同期だそうです。なんだか愛嬌と神秘と不思議を兼ね備えた存在として通ずるシンパシーを覚えますね。
SAMPO くるり 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:岸田繁。Netflixオリジナルストップモーションアニメ『リラックマとカオルさん』(2019.4.19)主題歌。『リラックマとカオルさん オリジナル・サウンドトラック』(2019.4.9)に収録。
くるり SAMPO(『リラックマとカオルさん オリジナル・サウンドトラック』収録)を聴く
音の余白がおおきいイントロデュース。ぽうんと漂うエレクトリックピアノの音色が左定位で伴奏のボディをささえます。右定位のピチョピチョとした音色のオルガンが短く音を切ってリズムを表現したり、クワーっと鬼気迫る表情で音を引っ張ったりします。
のどかなタッチの岸田さんのボーカルに、サビで女声がオクターブユニゾン。ファンファンでしょうか。エンディングにトランペットも入ってきて、非常に流麗で豊かなタッチで魅せます。クロスするようにジャジーでクリーントーンのエレキギターが極めて熾烈な1拍6連のオルタネイトピッキングでさも簡単そうに達者なフレーズ。主和音から半音下にキレイにズレたようなテンション感あるウワモノなど、エンディングで歌詞から解き放たれた間をつかってプログレ?ジャズ?多様な音楽世界がカーテンコールしセリフはなくとも映像を魅せていきます。フォウンとただようビブラフォンの響きのなかにリラックマの正体がいたりして……
後半で、Ⅴの和音とともにボーカルトーンをのばしたまま半音うえに上がり、調性も半音上の調に転調します。楽曲の高揚感を演出する、ジャパニーズポップスとしては定番の類の転調です。くるりが好むⅣ調など近親への転調とは態度が異なるところに、リラックマありきの大衆に向けたクリエイティブである制作方針がうかがえる気がします。くるりの近作ですと、『3323』も全音転調ですがエンディング前で元の調の少しうえにポンと上がる感じが共通しており、阪急さんとの共同といった具合に他の媒体やコミュニティとの連携であるくるりの社会的ポジにおける制作である点についても通ずるところを感じられて、音楽的な意匠・構造と作品にとりかかる前提も連携しているように思えて近作とならべてみても発見があります。

青沼詩郎
くるり>ニュース>岸田繁が全編作曲のリラックマ劇伴が配信開始!主題歌はくるりの新曲「SAMPO」(2019.4.9)
くるり>ディスコグラフィー>岸田 繁 / 「リラックマと岸田さん」 ~リラックマとカオルさん・リラックマと遊園地 オリジナル・サウンドトラック~<初回限定盤>(2022.9.28)
『SAMPO』を収録したCD『リラックマと岸田さん ~リラックマとカオルさん・リラックマと遊園地 オリジナル・サウンドトラック』(2022)