うわぁー。泣いちゃいますこれ。
歌唱のはかなくてしんみりしたひもじい感じがすごい。繊細です。ことば尻のゆらめき、ダブったサウンドの線は涙でにじんだ視界みたいです。
とってもシンプルな編成。右のナイロン系のギターがはえます。ピアノが左寄り、エレピがそれより少し真ん中寄りといった感じでしょうか。間奏のソロではいつの間にかピアノが真ん中に現れます。シンプルな編成ですが丁寧な処理を感じます。
歌謡っぽさがあるのですが、ストリングスやホーンで豪勢にしてしまわないところにえもいわれぬわびさび、楽曲のもつさびしいキャラクターを丁重にしていて好きです。
と思いつつ、2分25秒頃、2コーラス目のBパート?的なところに入るところで、たった1音、テンション感ある音を高音部で伸ばすストリングス……え? これだけ? これだけですよね?! 絞り切った登場させどころに震えます。逆に興奮してしまったほどです。
イントロ、エンディングはクリーンかつ太さを感じる存在感あるエレキギターがメロディを奏でます。この感じは歌謡っぽいですね。ムーディで好きです。
ドラムスがパシパシっとブラシで叩いているでしょうか。パサっとアタック。歌を立て、寄り添うやさしいフレンドです。1・3拍目を重視し、その直前の裏拍にひっかけるベースのベーシックパターン・太く頼れる音です。
“あなたの後を 追いかけたいわ できるものなら そうしたいわ でも潮風に 髪が傷んで もう会えないと 気づいた 夏のフィナーレ”(『さよなら八月』より聴取、作詞:竜真知子)
そんなことで会う気も失せるの?!と思わせますが、「分かる」心情です。己の弱さが出ています。髪が傷んでも、肌がばさばさでも、トイレが長引くのに気づかれても、不機嫌なところを見られても、一緒にいられる相手と長くいる、そういう人とパートナーでいることは、人生をのりきるひとつの有効な選択肢だと思います。
でも、恋は必ずしもそうじゃない。かっこつけたいのです。自分のハイライトを競い合う、悲しい虚勢の張り合い。だから楽しいし夢中になる。恋は概して短命なものです。
青沼詩郎
『さよなら八月』を収録したしばたはつみのアルバム『Retouch』(1982)
音楽ライター・金澤寿和さんが選曲。『さよなら八月』を収録したセレクション『Light Mellow しばたはつみ』(2014)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『さよなら八月(しばたはつみの曲)ギター弾き語り』)