まえがき
C# m から平行調のEメージャーに猛烈な8分割のウォーキングベースとともに飛び乗るサビに刮目。マイナー調のⅥを元調の半音上の調のⅤに読み替えてスムーズにDmに転調しメロメロ・ブリブリのサックスソロに突入するところもまた刮目。職業作曲家・すぎやまこういちさんの機能的かつ流麗な筆さばきを感じる作曲と、GSのショート・ショートでコンパンクトな音楽スタイルがかけあわさって刹那の娯楽の清涼をくれます。
センチメンタル・シティ ジャッキー吉川とブルー・コメッツ 曲の名義、発表の概要
作詞:橋本淳、作曲:すぎやまこういち。ジャッキー吉川とブルー・コメッツのシングル(1966)。アルバム『オリジナル・ヒット第2集』(1967)に収録。
ジャッキー吉川とブルー・コメッツ センチメンタル・シティを聴く
撫でるような囁くような甘いリードボーカル。エンディングの“あの娘を”のロングトーンはミックス上の手技も用いてなのか、異次元まで届きそうな轟く音響感で強く印象づけます。
ドラムのダイナミクスレンジの圧巻よ。ほとんど聴こえない(聴こえさせてやらないぜ!という)くらいのピアニシモのスネアのAメロ、かと思えばフィルインでは血気迫る鋭く強いダイナミクスで甲高い乾いたアクセントを響かせます。サビではこの乾いたスネアのオープンな音をメゾフォルテくらいの抑制の効いた適切な熱量で叩きわけます。
メロとサビ(というかブリッジ的? Bメロ?)の演じ分けがどのパートもお見事です。ベースなど特に違いが顕著。スネアを引っ込めるかわりにしっかりと感じられるキックのビートと息をそろえた確かなベースのストロークのAメロに対して、サビ“バックィン トゥ ザ タウン”のところでは猛烈なウォーキングベース。これ、サビでバイテン(倍のテンポ)にするリズム・拍子の豹変の仕掛けです。右のほうにいるエレキギターも、シャクシャク・ピタっと紳士的にタイトに演奏していたAメロに対してサビのところでサックスと徒党を組むみたいにうなりあげるような表情をみせます。
バイテン(倍のテンポ)になって雰囲気がガラっと変わるのはもちろん、C#mのじめっとした短調のフィールから、サビでは平行調のEメージャーのひらけた響き。ですがあくまで調合を共有する平行調ですし、ベースがあまりにも動きまくるせいもあってか、街の雑踏のなかや電車や車などの移動中に低音があまり聴こえないイヤホンで適当に聞き流していた時はメージャー調に変わっていたことに気づかなかったくらい自然さがあります。
作曲がすぎやまこういちさんで、音楽的な仕掛けの技巧を思いますし演奏であますことなく魅力を増幅するジャッキー吉川とブルー・コメッツの演奏力の卓越を思います。
歌詞は筒美京平さんと組んだ数多の曲を平山みきさんに提供した橋本淳さん。楽曲に湿度を与える平易な言葉づかい・語彙のフィット感です。
青沼詩郎
ジャッキー吉川とブルー・コメッツ公式サイトへのリンク message & profileの欄に“2002年5月30日 井上忠夫の三回忌によせて” という投稿があり、メンバーが井上さんに寄せる敬愛がうかがえてグっときます。
ジャッキー吉川とブルー・コメッツ 日本コロムビアサイトへのリンク
『センチメンタル・シティ』を収録したジャッキー吉川とブルー・コメッツのアルバム『オリジナル・ヒット第2集』(1967)