仕事にありつく

“マンガを読みたい ビールを飲みたい ステレオ聞きたい いい事がしたい 面倒な手続きなしで”

(ザ・ハイロウズ『なまけ大臣』より、作詞:真島昌利)

はたらくということは、雇い主の求める価値を提供するのと引き換えにお金をもらうことでしょう。もらったそのお金をつかってはじめて暮らしていける。はたらくことは、生活の基盤をつくるための第一歩……いえ、第ゼロ歩なのかも。

お金をもらうための、その仕事がない状態というのはしんどいです。生活の基盤を築けていない状態で仕事をさがすのはなおしんどい。今はあるが、それを切り崩しながら、ダメージを与えたりマイナーチェンジ(ダウングレード)をしながら仕事をさがすことになる人生のピンチもあるかもしれません。

長期採用はふつう(多くの場合)、メンドーな手続きを経てありつくことができるものでしょう。募集が雇い主から出される。それに、はたらき手が応募する。面談やら試験やらを実施の上、合否が決まって、約束事を交わし、ようやく「仕事」がまわりはじめる。それで仕事につけるのです。

もっと日雇い仕事みたいなものであれば「やらん?」「やる!」「いついつどこに来い!」「アイサー!」的にはじまり、一日のおわりに即金で対価をもらって関係はオシマイ、というものもあるかもしれません。世界にはそんなカタチの仕事もたくさん、現代に至ってもあるのではと思います。現代の日本の状況を思うと、ちょっと前時代的にも感じる様式かもわかりません。即金じゃなくて、アプリのなかに金銭相当の何かが貯まっていくとか、好きなタイミングで少額の手数料と引き換えに口座に振り込めるとか、そもそもそのまま電子マネーがつくとかいうバイトもあるのか?ないのか?ちょっと最近のバイト事情について私は知りませんが……

めしをとって、くう、ねる……であらば、野生動物的です。仕事をして、お金を得て、それでめしを得るニンゲン。住むにも資金をもとに、もろもろの手続きを得てお金を消費して住むわけです。そのお金を得るのに、仕事がいる。仕事があるからお金が得られる……生きるのは、はたらくことと癒着している。そんな生き物がニンゲンなのですね。

曲についての概要

作詞・作曲:高田渡。高田渡のアルバム『渡』(1993)に収録。

仕事さがし(アルバム『渡』収録、UHQCD)を聴く

むちゃくちゃご機嫌な演奏です。最高に気の利いた仲間がずっと極上の音と腕前でセッションしているみたいな。

仕事さがしは、人生に渡って、ずっと続くのを思わせる。約5分間の演奏時間、おわりの処理はフェードアウト。

UHQCDというのがどんなものかの興味もありました。この作品はサブスクやダウンロード販売で聞けないようでしたので。検索してみるとUHQCDは「音がぼける」なんて評にも出会いますが、私は凄く気持ちが良い音に感じます。やわらかく、あたたかい。手触りが心地いい毛布みたいです。もちろん、高田渡さんのアルバム『渡』、同じ作品を通常のCDと聴き比べたわけじゃありません。

クレジットにある「P.S.G.」って何かなと思いましたが、ペダル・スティール・ギターのことだと思います。尾崎孝さんが演奏されています。

ギターづかいが、シンプルでもあり構築が細かくもあります。佐久間順平さんが演奏するアコギが右側定位でベーシックを築きますが、右側定位で、P.S.Gが合いの手をいれます。このクリーンで透明さにひっくり返りそうなポルタメントトーンが極上です。

ペダル・スティールと左のアコギのあいだに、間奏や後奏のここぞで、ふつうのエレキギターの闊達で流暢なプレイが顔を出します。ちょっとレンジ感の違うふたつのトーンがぴったりとユニゾンしたかと思えば役割を分けてそれぞれにプレイをはじめたりと、ギターの振り分けが細かいと感じたのはそういうわけです。

空間や空白の使い方がよく、高田さんのボーカルが漂います。嘆くように、やさしくことばを置いていきます。左にベーシックのアコギが寄っているので、ささやかなドラムとがっしり頼れるベースが真ん中付近で鳴っていて、右寄りのペダルスティールが音を出さずに静かにしている間は、高田さんのボーカルが右に向かって抜けていくような残響感を味わえます。右に空間が空いているから右に抜けるように感じうるのでしょう。

アコーディオンのなす複音のゆらめきがまるで福の音。ここちよく、演奏が進むにつれてメンバーと一緒にどんどんゴキゲンになっていくみたいです。

なんか、もう仕事なんて見つからなくていいか、なんて気になってしまいます。いえ、自暴自棄や身を投げるようなアティテュードで人生に望むのは避けるべきであって、それを進める意図はありません。高田渡さんの演奏や作品に感じる、特有の「諦観」や「達観」のようなものを『仕事さがし』を聴いた人と一緒に感じたいと思うのです。それは、どんなに冷たい夜風にさらされようとも命のあたたかみを連れていると思えるからです。人生は、ずっと“仕事さがし”。

青沼詩郎

参考歌詞サイト 歌ネット>仕事さがし

参考Wikipedia>高田渡

『仕事さがし』を収録した高田渡のアルバム『渡』(オリジナル発売年:1993)

『仕事さがし』を収録した高田漣のアルバム『コーヒーブルース~高田渡を歌う~』(2015)。現在、この楽曲『仕事さがし』にふれるハードルが低いのはこちらかもしれません。漣さんの闊達で軽快な弦楽器プレイ、アーシーでこくがあってざらざらしたようにもすべすべの絹のようにも思える極上の歌声がお父上と同じ地平で素晴らしいです。