暑中お見舞い申し上げます キャンディーズ 曲の名義、発表の概要

作詞:喜多條忠、作曲:佐瀬寿一。編曲:馬飼野康二。キャンディーズのシングル、アルバム『キャンディ・レーベル(Candy Label)』(1977)に収録。

キャンディーズ 暑中お見舞い申し上げますを聴く

演奏に勢いがあって痛烈です。闊達なドラムとベース。まっしぐらに夏の海に向かって洗練された飛び込みをキメる爽やかさ。ハーフテンポで緩急をつけます。タムが東西をよぎる新幹線のように両耳のあいだにトンネルを通します。コンコンと降り注ぐピアノのストロークの響きの絢爛さはKANさんのサウンドを思い出させもします。アコギではなく、ピアノ・マンが中心にいるバンドのサウンドです。ギスっとした鋭いリードトーンのエレキギターは海の家の暖簾に急速なエイジングをかける潮風。ピニョーーーンと独特の存在感、シンセサイザー特有の倍音に人工的なチープ感あるサウンドはさながらブルーハワイのかき氷の頭頂部にトッピングするバニラアイス。人なつこいおかしみを添えます。

ピンク・レディーの『サウスポー』で聴くシンセサイザーと似ているかなと思い出すのですが、改めて聴き比べるとそれぞれ違います。ポルタメントが似て感じさせる要因でしょうか、音程を無段階に移ろう音色です。フレットや鍵盤によって区切られた音程をつくる生楽器には不向きな表現がこうした幅の大きいポルタメントです。人工・人為的な質感をもたらします。

いずれにしても、俯瞰して聴いてみると『暑中お見舞い申し上げます』におけるシンセは微々たる要素で、生楽器の痛烈な演奏に人工的なカウンターでお互いを引き立てるスパイスなのですが、たとえ脇役としての役使いであってもときに強烈な印象をあたえるシンセサイザーの威力を『暑中お見舞い申し上げます』や『サウスポー』を聴くと思い知らされます。

2分12秒あたりで唐突にウクレレの猛烈なストロークパートが4小節挿入されます。季節の演出に鼻の下をのばす現金でスケベなナンパで、リスナーを南国に強制送還。ベーシックトラックの演奏がキレキレなのでこういう遊んだ演出が挿入されても好感が持てる上、微笑ましく思えます。

なぜかパラソルにつかまり あなたの街まで飛べそうです 今年の夏は 胸まで熱い 不思議な 不思議な夏です 暑中お見舞い申し上げます

『暑中お見舞い申し上げます』より、作詞:喜多條忠

こっちが「なぜか」訊きたい気分ですが、歌詞のなかで自ら「なぜか」と言ってしまうことで喉から出かかったツッコミを押し戻される思いです。なぜパラソルなのか? それは夏だからでしょう。安易な連想と納得しうる。パラソルを夏から連想するのはいいとして、なぜそれにつかまってなどいるのか? 「あなたの街まで飛べそう」だからです(説明になってます?)。

郵便局のコマーシャルメッセージとして起用された曲だそうですので、葉書だとかお中元のようなものでしばらく会えていない人に音信を「飛ばす」情景を描いているのでしょう。

葉書とか中元は私の勝手なイメージとしては「ふだんあまり頻繁には会えていない人」のあいだでやりとりする思念の表れだというイメージがあります。ですが、基本この曲での「あなた」は、主人公と親密な恋仲という感じもします。もちろん、昨日会ったし今日も明日も会うような仲で葉書や中元をやりあうのもありえないとはいいません。それもウィットがあって良いでしょう。この歌詞がそれを言っている・言っていないとも限りません。複数の「あなた」に向けた曲なのかもしれません。もしかしたらモテる、二股以上を並行するヤリ手が主人公なのか。

はやくあなたに会いたくて 時計をさかさにまわしてます

『暑中お見舞い申し上げます』より、作詞:喜多條忠

早く会いたい場合、逆さでなく順方向にまわさないといつまで経っても会えないのではないか? とツッコませます。過去に戻ってあなたに会いたいのでしょうか。深淵です。でもこの曲のキモは、そういう連想の安直さが細かい整合性を無視することで醸す、ちょっとおバカで短絡的なところが愛嬌ですしそれをわかっていてわざとやっている、ツッコませるのを想定してやっている感じがします。

たとえば毎日のように会える親密な仲で、あえて葉書や中元を送るというのもツッコみを誘う洒落っ気です。もちろん、滅多に会えない人からの音信であってもそれはそれで嬉しいものでしょうし、それこそが中元や葉書の本来の威力でしょう。

夏やくすぐったい恋を素地に描くから「郵便のわびさび」とはほど遠い気もするのに「暑中お見舞い申し上げます」なんてフレーズをおもむろに肝要に扱うのです。スケベでしょう。

青沼詩郎

参考Wikipedia>暑中お見舞い申し上げます

参考歌詞サイト 歌ネット>暑中お見舞い申し上げます

『暑中お見舞い申し上げます』を収録したキャンディーズのアルバム『キャンディ・レーベル(Candy Label)』(1977)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『暑中お見舞い申し上げます(キャンディーズの曲)ギター弾き語り』)