まえがき

来生たかおさんのライブアルバムTry to remember』(2008)に収録されているものをサブスクで聴くことができます。大橋純子さんへの提供曲で、キティちゃんで知られるサンリオが手がけた新書の恋愛小説レーベルのためのイメージソングで、新書レーベルの名前も同名の『シルエット・ロマンス(Silhouette Romance)』。

曲の雰囲気からして、いかにもな来生えつこ&来生たかおさん作品という印象です。短調の哀愁に満ちた曲想なのですが、演歌や歌謡として括るのとも違うと思えるのは独特の諦観が漂うせいでしょうか。演歌や歌謡くささのにおいが強いものは、私のなかではもっと怨念めいた印象を受けるのです。それはそうと、ビリー・バンバン『また君に恋してる』、山口百恵『いい日旅立ち』といった楽曲にうかがえるような独特の旅情深い味わいもあります。いずれも人生は儚く刹那であることに自覚的である……というのは私の気分程度の仮説です。

ライブ版でなくスタジオ音源の来生たかおさんのセルフカバーバージョンの『シルエット・ロマンス』はいくつかバージョンがあるようで、サブスクでは私には探し当てることができませんでした。円盤を求めて聴くと良いようです。来生さんバージョンのスタジオ音源の初収録円盤は来生たかおさんのシングル『気分は逆光線』(1982)のB面です。

2008年発売のライブアルバムバージョンの音が良く演奏も歌唱も精緻で、エンディングに拍手が重なり、え?これライブバージョンだったの?と初めて気づく始末。驚きました。

シルエット・ロマンス 大橋純子 曲の名義、発表の概要についてのまとめ

作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお。大橋純子のシングル(1981)。サンリオの恋愛小説新書レーベル『シルエット・ロマンス(Silhouette Romance)』イメージソング。大橋純子バージョンの収録アルバムはベスト盤の『MINDS』(1982)。来生たかおセルフカバーの初出盤はシングル『気分は逆光線』(1982)のB面で、ベスト盤の『BIOGRAPHYⅡ』(1982)にも収録。

大橋純子 シルエット・ロマンス(ベストアルバム『MINDS』収録)を聴く

儚いメロからサビの堂々とした輝きまで、ダイナミクスと表情に富んだ大橋さんのリードボーカルを多彩なオケトラックが抱擁します。これ、オケで一発録音したのでしょうか。規模感が壮大ですが各楽器の音色がとても明瞭ですし定位のセパレーションも良いです。

パーカッションづかいが耳をひきます。チチチ……というトライアングル。はらりと風が木立を揺らす動きを表現するかのようなウィンドチャイム。ハープのグリッサンドもそうした、風のような、実態があるようなないような真理が人生を横切っていくのを想起させます。

キックの音が非常にふくよかで、タイコやハイハットの音は撫でるように繊細なニュアンスなのにそれがかえって豊かに聞こえますし、ほかのトラックを引き立てもします。低音の解像度と慈しみ深さって、バンドにおいて本当に重要なものだとしみじみ思います。トロンボーンなのか、低音金管の絹が風に吹かれてなびくみたいな柔らかいトーンも非常に効果的です。

リードボーカルの歌詞「シルエーット」に反応してバックグラウンドボーカルが「シルエーっ……」っとリプライするのですが、これがその単語の通りシルエット(影)を表現する意匠でしょう。震えました。素晴らしい意匠です。

曲も後半にさしかかるとストリングスが歌メロをトレースしはじめます。これでふたりのシルエットが重なり、求め合い、愛がたかぶる意匠でしょうか。聴き手もたかぶります。

そしてあとはもう邪魔しないのが粋だぜといわんばかりにフェイドアウトの処理でエンディング。この極上の音をいつまでも聴いていたいのですがそれは不粋というもの。あとはふたりにまかせて、観察者はそっと扉を閉めて遠ざかるのみなのです。

編曲者は鈴木宏昌さん(参考Wikipediaへのリンク)。コルゲンさんが愛称で、ジャズで活躍した方でもあるとのこと。

青沼詩郎

参考Wikipedia>シルエット・ロマンス大橋純子

参考歌詞サイト 歌ネット>シルエット・ロマンス

大橋純子Official site – Junko_Ohashiへのリンク

来生たかお オフィシャルサイトへのリンク

『シルエット・ロマンス』を収録した大橋純子のベストアルバム『ゴールデン☆ベスト 大橋純子 シングルス』(2003)

『シルエット・ロマンス』を収録した大橋純子のベストアルバム『MINDS』(1982)

来生たかおの実演によるライブ収録の『シルエット・ロマンス』を収録したアルバム『Try to remember』(2008)

来生たかおバージョンの『シルエット・ロマンス』を収録したアルバム『BIOGRAPHY II』(1982)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】刹那の激情『シルエット・ロマンス(大橋純子の曲)』ギター弾き語り』)