まえがき

降らせたのか降っていたのか、路上になみなみと満ちる水たまりをバチャバチャ跳ね上げるかのごとく天真爛漫に踊り、足を踏み鳴らし踊り(タップダンスし)歌う名シーンが印象的な同名映画の劇中歌・主題歌。元は1929年、役者たちの顔見せ映画『ハリウッド・レヴィユー』に用いられていた楽曲(あるいはその前年や前々年あたりに起源がある説もあり)だそうで、ジーン・ケリーが歌う有名な映画が世にでるまでには20年以上の隔たりがあります。 土砂降りの雨のなかでこんな歌が鼻や口を通って自然と漏れるほどご機嫌になれるか不思議ですが、その特異なギャップこそが年代を超えて愛される強い印象を与えた一因でしょう。 ポンと跳ね上がってはひらひらと傘が宙を舞いながらスローモーションで滑空してくる様子を表現したかのようなメロディ・音形。万人が口ずさみたくなる愛嬌の秘密(とするにはおおげさですが)は、ひとつにはペンタトニックスケールを用いている点にもありそうです。

雨に唄えば Singin’ In the Rain(Gene Kellyが歌った劇中歌) 曲の名義、発表の概要

作詞:Arthur Freed、作曲:Nacio Herb Brown。元は1929年、アメリカの映画およびテレビ番組の製作・配給会社Metro Goldwyn Mayer(MGM)の顔見世映画『The Hollywood Revue of 1929』に用いられた楽曲で、それを原案にミュージカル映画『Singin’ in the Rain』(1952)が製作され、劇中歌・主題歌となる。

Gene Kelly 雨に唄えば Singin’ In the Rain(『Singin’ in the Rain (Original Motion Picture Soundtrack)』収録)を聴く

歌が軽くて自由自在です。息になびくようにかろやかにビブラートします。歌いやすい音域に収まっています。男声ならそのままのキーで一緒に口ずさめる人は多いのでしょうか。かといって低くへばりつくこともありません。あくまで、舞うようにかろやか。

フルートのスタッカートにグロッケンがチカチカとシンクロします。ちょっとWinnie the Poohの音楽を思い出しもします。フルートが口笛みたいに軽やかなんです。あざやかにハープが、都市の建物の外壁を撫でさるようにグリッサンド。まるでフェザータッチ。軽いです。器楽にまかせてボーカルが少し出ていったかと思えば戻り、やがて完全に器楽にまかせる長い中間部。このあたりで軽快に、豪快にジーン・ケリーが飛んだり跳ねたり、じゃぶじゃぶとパイプから地面に滝のごとく吐き捨てられる雨水を傘で遮ってみたりしているシーンが浮かびます。パサパサとスネアをブラシで触っているようなサウンドもまた軽い。後編に至るころにはスウィングするビートでビッグバンドジャズのような様相に変わります。ミュートなどを使う奏法なのか、ブラスも効果的に雨水したたる隙間に熱風を吹かせてきます。

エンディング付近でビートがふわっと緩みホルンのサスティンが残る。歌手がさいごのワンフレーズの歌詞を唱えて背中を見せる。警備員だか警官だかにアートスクールの前でニラまれるもさらっとやりすごして去っていくあたりのシーンが思い浮かびます。

音楽のタッチがいたるところに及んで軽いのです。雨のしずくのように自由で変幻自在。雨は逆境の象徴にもなります。イメージの反転ですね。上機嫌の象徴に生まれ変わります。世界の雨のイメージをしゃれものに塗り替えた功績は100年も悠然と超える身軽さです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>雨に唄えば雨に唄えば (曲)アーサー・フリードNacio Herb Brownハリウッド・レヴィユー

参考歌詞サイト 世界の民謡・童謡>雨に唄えば Singin’ in the Rain 歌詞と和訳 土砂降りの雨の中タップダンスを踊るシーンで世界的に有名

『Singin’ in the Rain (Original Motion Picture Soundtrack)』(オリジナル発売年:1952)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】雨に唄えば『Singin’ In the Rain(Gene Kellyが歌った劇中歌・主題歌)』ギター弾き語り』)