まえがき
歌い出しからして聞き覚えのある有名な歌だと、うっすらでも認識する人は多いのではないでしょうか。 元々は1930年代のチャップリンの映画の劇伴音楽、インストゥルメンタルの主題音楽。後年に渡り数多のカバーを生むのは歌詞つきのボーカルミュージックとしてリリースしたナット・キング・コールの実演の功績が大きいでしょう(ジュディ・ガーランド、ニール・セダカ、エリック・クラプトン、エルヴィス・コステロ、エリック・クラプトン、スティーヴィー・ワンダーなど私の趣味の範囲だけでもカバーしたアーティストが多数)。 ナット・キング・コールの実演を聴くと、チェロが色っぽく、ビブラフォンだかグロッケンがチランと街灯りのような輝きをそえます。足捌きかろやかなピアノは、スクリーンのなかで踊るように活躍する主人公の動きを想像させます。ロマンティックな和音のテンション感がモダンな印象です。前後感豊かな音響で、小節線を悠然とまたぐ彼のリードボーカルの堂々たるや。ベースがズンと深く絶対的な安心感をくれます。エンディング付近には低域の金管、かき回すハープのグリッサンドなどドラマティックな展開がつき、未来への期待を思わせて結びます。
Smile 曲の名義、発表の概要
作詞:Geoffrey Parsons・John Turner、作曲:Charles Chaplin。チャップリンの映画『Modern Times』(1936)のテーマ曲(インストゥルメンタル)。歌詞のついたものをNat King Coleが歌ったシングル(1954)がリリースされた。
Nat King Cole Smile(Apple Music配信版の『Unforgettable』収録のもの)を聴く
時計の針を夕暮れの彼方に置き忘れたみたいな悠然とした曲想がロマンチックです。
2/4と解釈すると、裏拍にスミャっという感じにギターのダウンストロークの裏打ちが入ります。このストロークの音色がやさしい。
管楽器がひとことずつ、遠い未来への約束を宣言するみたいに語彙を表明するごとにピアノが講評をひとこするみたい右の方の定位で反応します。このピアノのサウンドが慈愛に満ちていてやさしいのです。気が付くとトロンボーンの長い音符が近くの車線を並走しています。
ストリングスの音域が広い。イントロ付近は低音域がスポットライトをひきつけますが、ヒィィンというバイオリンのみが進入を許されるビルの屋上の数々を撫でるように夜風がさすらいます。
チャップリンはスコアをみずから書くタイプの作曲者ではなく、そういう起こしの作業をするのは協力者がいたような記述にネット検索で出会いました。きっと、楽器やらをばんとその場で弾いてイメージをその瞬間にこの世に具現化してしまう手法の表現者なのではないでしょうか。映画への完璧主義ぶりも語り種だそうで、相当なテイクを撮り直し、映画の制作に時間をかけたようなエピソードもうかがえます。
おどけたピエロのようなキャラを演じていても厳かなんですね。だから笑顔が光るのです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>スマイル (チャールズ・チャップリンの曲)、Nat King Cole discography
参考歌詞サイト 世界の民謡・童謡>スマイル Smile 歌詞の意味・和訳
シングルの『Smile』はNat King Coleの同年のアルバム『Unfogettable』(1954)のオリジナルには含まれませんが、ボーナス付きの再発リリース版などなのか『Smile』を含めたものも存在するようです。