尊さの向こうが見える
素の私に「おれの心の原風景のサウンドはこれだ!」と思い出させてくれるよう。ギターの響きが豊かでふくよか。敷き詰める歌詞のリズムとメロディには密度、箇所による抑揚、単語・言葉が活きるメリハリ・スピードがあります。コード進行にセンシティブに反応し、サビでカノン進行風の下行系ベースに乗ってボーカルのメロディアスも最高潮に達します。
「壊して そのスピードで」と倒置形で締めくくるサビ終わりのフレーズで、音楽のスピード感を損ねずに間奏や後奏に接続し快活流麗な印象です。
『そのスピードで』を含め収録アルバム『TERRA2001』を聴いていると、このグループは様式美をなんて分かっていらっしゃるのだろうと感嘆するのです。特長を掴み、抽出・反映する解像度に、このグループが志向・敬愛する文脈がそびえます。
そのスピードで the brilliant green 曲の名義、発表の概要
作詞:川瀬智子、作曲:奥田俊作。the brilliant greenのシングル、アルバム『TERRA2001』(1999)に収録。ドラマ『Over Time-オーバー・タイム』主題歌(フジテレビ、1999)。
the brilliant green そのスピードで(アルバム『TERRA2001』収録)を聴く
喉のひらいたその奥、息がしゅわしゅわ通る音を連れて胸から上がってくるような深い川瀬さんの歌唱の質感がヴァースをリッチな印象にします。
ずぅんと深くドライブしたベース。ドラムもパコンとファットさと粒立ちがあります。右にアコギのストラミング、左にエレキの伴奏がいて、シンバルのオープンのサウンド、ドライブ感あるベース、チキチキとタンバリンとあいまって、常にステレオの器が満たされた量感を志しているのが伝わってきます。ひゅわーっと、オルガン系のサウンドが後光を添えているのもポイントです。
熱量のデザインは、イントロや間奏のエレキギタートラックの出入り、それからハーモニーのボーカルの出入りが担っている感じです。それからリードボーカルの抑揚やメロディアスさそのものにも起伏があるのももちろんのことでしょう。ヴァースで深い質感のリードボーカルもサビでは光のコントラストを強める響きです。
エンディングではエレキギターが最も高揚した音域のリードトーンを加えて終止します。
メインのパターンが1、7♭、4、7♭と帰結感の薄いカデンツになっているのが人生を道草で埋めつくしているようなロック文脈を思わせます。AメージャーキーなのでA、G、D、Aという進行ですね。Eを用いた分かりやすいドミナントモーションはサビ前だけにあるので、サビの華やかな幕開けが際立つのです。
「スピード」はその活動のスイッチが入っている、アクティブである、活性があるのを思わせる主題です。音楽は時間芸術ですから、鳴らし続けることではじめてアクティブでいることのできる、手(命)のかかるコンテンツなのです。彼らの、基本的には終始にわたって豊かにデザインされた満たされたサウンドに、そうした刹那性への自覚と挑戦心がうかがえるようで尊く思えるのです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>そのスピードで、TERRA2001、the brilliant green
the brilliant green | ソニーミュージックオフィシャルサイトへのリンク
『そのスピードで』を収録したthe brilliant greenのアルバム『TERRA2001』(1999)