反町隆史『POISON 〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜』(以下、『POISON』)を聴かせると赤ちゃんが泣きやむという口コミがあった。なにかを模倣した動画が次々に広まる現象を「インターネット・ミーム」というらしい。
ある休日のおやつ時の話。私の次男(1歳7か月)が、クッキーをほおばった。噛み砕くとき、勢い余って口のなかを噛んだらしい。火がついたように泣き出した。そこで、『POISON』を聴かせると赤ちゃんが泣きやむという話を思い出した。
スマートフォンを取り出す。Bluetoothスピーカーに接続して『POISON』を再生。エレクトリックギターの6弦の開放弦を使った、刺繍音とオクターブ跳躍が印象的なあのリフレインが鳴る。反町隆史の低域に特徴のある艶っぽい声が中央から現れた。
息子は火がついたように泣き続けた。泣きやませは失敗だ。
そりゃそうだよなと思う理由がある。
・ぐずったのではなく、口の中を噛んだのが痛い
・卒乳している。もはや赤ちゃんではなく、幼児
ちなみに『POISON』が駄目だったので、すかさず思いつきで井上あずみが歌う『さんぽ』(作詞 中川李枝子、作曲・編曲 久石譲)を再生してみた。ワクワク感高まるイントロ。なんと、泣きやんだ。しかし歌い出しを少し聴いたあたりで再び泣き出した。Bメロもまだ、くらいだったか。そりゃ、口の中が痛いんだから当然だ。スマホで曲をプレイしていないで直接ケアしてあげるほうが彼のためかもしれなかった。
赤ちゃんがぐずって泣いているときに、「音楽」を頭の近くで再生したら、反町隆史『POISON』でなくとも泣きやみそうにも思う。我が家の子どもたちはもう「元」赤ちゃんになってしまったけれど、音には人間に本能的な注意を促す力がある。案外、幼児でも児童でも青少年でも成人でも、時と場合によっては泣いているその人を落ち着かせる効果がいろんな楽曲に望めるかもしれない。
反町隆史『POISON』は1998年のシングル。同年のフジテレビのドラマ『GTO』の主題歌。さらに同年の反町隆史のアルバム『HIGH LIFE』にも収録されている。…ん? アルバム?
反町隆史は1997〜2000年にかけて、3枚のオリジナルアルバムを出している。本人主演のドラマの主題歌があったのは記憶していたけれど、アルバムまで出していたとは知らなかった。
『POISON』の作詞者は反町隆史。作曲者は井上慎二郎。
反町隆史は作詞に積極的で、アルバム『メッセージ』『HIGH LIFE』の全詞を手がけている。いずれも、極めて実直な言葉で青く光る心が表現されている。『POISON』を聴いてもおわかりいただけるのではないか。
彼のメドレーをYouTubeに見つけたのでリンクしておく。
『POISON』作曲者の井上慎二郎を調べてみると、意外なことが私の中でつながった。
私は言葉あそびが好きで、架空のキャッチコピーや創作物のタイトル、箴言やパロディを考えては、よくひとりでニヤニヤしている。
私はThe Beatlesが好きで、特に近年になってよく聴くようになった。あるとき、ふと『Let It Be』にかこつけて「Let It C」というフレーズを思いついた。BでなければCだ、という発想だ。思いついたそばから、いかにも他の人も考えそうな発想だなと我ながら思って「Let It C」を検索してみた。すると、思った通りすでに存在した。私は少なくともふたつの異なる「レット・イット・シー」という音韻をタイトルに持つ作品を見つけた。そのひとつが、井上慎二郎の『Let It“C”』だったのである(中古CD情報があったからよっぽどポチろうかと思ったけれど、興奮していたから平静になってからでも遅くないと慎んだ)。
今回、反町隆史『POISON』について調べたことで、「レット・イット・シー」の井上慎二郎と再び巡り合ったのである。
井上慎二郎はこの作品を今年『Let It ”C” -2020- 』として再リリースしている。オリジナルは1997年のシングルで、映画『岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇』主題歌だ。
「レット・イット・シー」を発表した井上慎二郎の作には「スタンド・バイ・ユー」がある。こちらは彼が作詞し、東方神起『Stand by U』となって2009年日本レコード大賞優秀作品賞作詞部門を受賞した。『スタンド・バイ・ミー』でなく…つくづく、発想の人だと思う。
ご笑覧ください 『POISON 〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜』カバー
青沼詩郎
反町隆史
https://www.ken-on.co.jp/sorimachi/
井上慎二郎
http://inoueshinjiroh.com/
ご笑覧ください 拙演