スプリング・ハズ・カム りりィ 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:りりィ。編曲:木田高介。りりィのシングル『心が痛い』、アルバム『Dulcimer(ダルシマ)』(1973)に収録。
りりィ スプリング・ハズ・カムを聴く
この独特の声質。Wikipediaなどみるにこの声に至るエピソードがうかがえます。こうした強烈なハスキーな声を獲得する人には、その声に至るきっかけとなる出来事が何かあったりします。
顔のしわ。手のしわ。しわだけじゃない。様子、表面の質感。顔や手だけじゃない。その人がオモテにあらわにする要素すべてに、その人が経てきた人生があらわれます。声もそうでしょう。しゃべり方もそう。話の内容もそうでしょう。りりィさんの声を聴くと、そのうしろになびくたくさんの時間の質量につい気をとられてしまう私がいます。
おもむろに春風がどびゃっと強く吹くような、ミファ♯ミラド♯(in A Majorキー)〜というモチーフがイントロとエンディングにつきます。唐突にはじまり、唐突に終わっていく。春が来ることは唐突でなく誰もがわかっていることなのですが、いつも出会いも別れも唐突にぽろっと人生に舞い込むような気がしてしまうのは私があまりにもぼんやりしているからなのでしょうか。そうでない、自分もそうだという人もいるのでは(いてくれ、頼む)。
アコースティックギターの音色が左側に寄ってオブリガード。右よりには音質をよくトリムされて低域のスッキリしたピアノががんがんと社会の動きにトンカチを入れるようにストロークします。
ピアノが譲った低域にすっきりとベースの音色が冴えわたり、ドライで耳ざわり・輪郭のマイルドなキックの点が確かに拍動を描き込みます。
スパコンと抜けたスネアの音が爽快です、こちらも抜けているが耳にいたくない。減衰系のバンドベーシックにストリングスの音色がおひれと背景の奥行きを表現します。イントロとエンディングのミファ♯ミラド♯の短いモチーフを明瞭にするのもストリングスの担うところです。
“うららかな春を もっと近くで見たい 草のなかで 静かに静かに眼をつぶり ひとめにつくよ 仲のいい蝶々 早くどこかへ かくれなさい 今はただ 眠りたいよ このあたたかい なかで おやすみ おやすみ”(『スプリング・ハズ・カム』より、作詞:りりィ)
要所で語彙のリフレインを取り入れます。ちょっと河島英五さんなんかを思い出す曲調でもあります。
蝶々がつがい、人間の恋人を表現します。仲睦まじいところをひけらかすと……自分たちにも周囲にもあまりいいことがない気がするのはなぜか。恋仲の良さをあらわにすることにともなう実害は特にない気もするのに、どうして恋やイチャコラのたぐいは見えないところでやるのが粋なように思えるか。この問題の答えについてはもう少し考えてみたいです。春の唐突な風にだかれながら。考えているうちに、ろうそくの灯みたいにいつ吹き飛ぶかわからないのが人生でもあります。
青沼詩郎
『スプリング・ハズ・カム』を収録したりりィのアルバム『Dulcimer(ダルシマ)』(1973)