まえがき

ギターやシンバルのオープンなサウンドがわさわさと鳴り、分厚くそびえる倍音で満たした空間に喉の奥の腹の奥のさらに向こうから取り出した輝きを突きつければOasisという観念が顕現する、という気がします。一個一個の曲も大事だけどそのすべての集合、あるいはすべてに通ずる響きに痺れるのが私だけでなく世界中なんだろうと思います。

Stay Young Oasis 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Noel Gallagher。Oasisのシングル『D’You Know What I Mean?』(1997)に収録。コンピレーション(B面ベスト)『The Masterplan』(1998)に収録。

Oasis Stay Young(『The Masterplan』収録)を聴く

明るくて輝かしい響きをバンド、ボーカルメロディやハモりで体現。Oasisの作品って、音楽の形式とかコード進行だとかアレンジ・編成がどうのだとか、そういった意匠の向こうにあるものを取り出そうと試みている感じがするのです。だから永遠に聴いていられる感じがします。だって、その向こうにあるものを言い切っているわけじゃないのです。個別の楽曲を窓にして、フレームにして、その枠をのぞいてみたら今のオマエに何が見える? それぞれだろ? って言われている感じがするからです。

高校生くらいの頃にこの曲に出会いました。その頃は『マスタープラン』がB面集だなんてあんまり意識せずに聴いていた気がします。ひときわ華やかで、ひと懐っこい楽曲があって好きだなと思った。それが『Stay Young』でした。

この人懐っこさの具体的な理由はなんでしょう。D→F#にせり上がるコード進行でしょうか。このコードパターンはイエモンの『SPARK』とか、Radioheadの『Creep』とか好作の枚挙に暇がありません。コードパターンももちろん一理あるのだけれどそれにとらわれてはこの曲の向こう側の景色が平面になってしまいます。

フレンドリーな歌詞でしょうか。そのあたりは大きいかもしれません。普通に激励みたいな思念だととらえ、解釈・味わいやすい。世界の人数の、母数の大きさにはたらきかける要因として歌詞のメッセージのまっすぐさ、わかりやすさ、平易さはひとつ捨ておけない必須要素かもしれません。

シャッフルビートの嬉々としてハネた躍動感もこれ、ひとつ重要かもしれません。

チャリチャリとタンバリンが華やか。こうした明るく輝かしい響きは多くの人にはたらきかける一因でしょうか。

ギターの厚み、倍音の豊かさがすごい。一回ズボーンとストロークして伸ばしたら永遠にサスティンするみたいな歪みとコシがすごい。コードギターでたとえば5弦からのパワーコードのフォームでいえば主音の4度下、6弦の同フレットも同時に鳴らしているかのような厚み感。イヤフォンなどでライトにこの曲に親しんでいる時こそギターが倍音豊かで華やかだなと思っていましたが、今回改めてヘッドフォンで聴いてみると、おぞましいほどの歪みの強さと低域の圧、飽和感を覚えました。アン直でこの歪みが得られるか? どんな歪みペダルなどを使っているのか、どんな録音手法、どんな結線でこのサウンドが得られるのか興味があります。

タンバリンと協調して華やかさと、前に前に推進する力を演出するのがハイハットのオープンクローズです。2拍目裏、4拍目裏でオープンにするタイミングの人為的な揺らぎが気持ちいい。シャワーっと歯ざわりのよい輝かしいサウンドで、凶悪なまでのギター・ベースの響きで満たされる空間の上空に光を乱反射させます。

ずっとギターがオープンに鳴っていて、ドラムがタムで散らすフレージングに移行しても一定の安定感を保ちます。

全体の定位感は、複数のギターの定位に少し差をつけたり、ハーモニーのボーカルで立体的な定位感を演出している程度の印象で、案外バンド全体の音の配置は平面的だと改めて聴いてみて思いました。極端な定位づけは控えてある印象です。リスナーの立ち位置からフレームまで1.5〜3歩くらいの距離がある感じ。

3分台前半頃、それからエンディングにチュィーンというカーブを描くような謎の音が入っています。シンセサイザーか何かで生じさせたのか、バンドのメインの楽器の演奏トラックとは少し違う、演出・効果を狙ったトラックの飾りもわずかにうかがえます。

エンディングは太いリズムが抜けて、タンバリンがチャリチャリ鳴り、ギターのリフレインでフェードしていく。『Whatever』みたいに、ほろほろと崩れながら意識が遠のくような、悠久な時間の移ろいを保って、リスナーの現実と楽曲のなかの景色・フレームの境界を無段階にクロスさせます。

問いをつきつけられている感じがするんですよね。それを受け取って、フォロワーバンドをいったいいくつ生んだのか。Oasisは問いのバンドです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ドゥ・ユー・ノウ・ワット・アイ・ミーン?ザ・マスタープラン

参考歌詞サイト JOYSOUND>Stay Young

Oasis 公式サイトへのリンク

Oasis Live ’25 JAPAN : オアシス来日記念公式サイトへのリンク

『Stay Young』を収録したOasisのコンピレーション(B面ベスト)『The Masterplan』(1998)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】倍音を割くドリップ Stay Young(Oasisの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)