まえがき
水曜日をモチーフにしたりタイトルに入れたりした楽曲は案外多いようです。清音の発音からしても流麗なイメージですが、それゆえに儚く去ってしまう印象も抱きます。音楽業界的にはリリース日という慣例もありますが、現実のあなたは水曜日に対してどんな印象を抱くでしょうか。
小田さん・鈴木さんの二人編成になって最初のオフコースのオリジナルアルバム収録曲です。作曲がおふたりの半々くらいの比率で構成されたアルバム。演奏はお二人に加えてベーシックにDr.矢沢透さん、Ba.重実博さんがレコーディングメンバーに参加。
コンガの乾いた音がモチーフの雨、メランコリックな曲想と好対照。I度の低音保続の上で上声が移ろうコード進行がおしゃれ。コーラスと入れ替わるように浮き上がるベースのハイポジション。漂うラテンパーカッションは五線の魔法の呪文。ベースやハイハットの16分割の描き込みの密度も曲の進行とともに変化。バックグラウンドボーカルのレイヤーがかもすうるおい感はオフコースに私が抱く中央イメージです。
水曜日の午後 オフコース 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲：小田和正。オフコースのアルバム『オフコースⅠ／僕の贈りもの』（1973）収録。
オフコース 水曜日の午後（アルバム『僕の贈りもの』収録）を聴く
小田さんのボーカルに漂う清らかな魔性はぴんとはりつめた糸のような緊張感をもったダブリングのサウンド。あまりにもきれいな描線です。2回歌っているのかな。それとも録音技術的に遅れた原音を加える類のものでしょうか。わからないくらいに精緻。
ハーモニーのボーカルもダブってあるのかどうか。左にもオブリガードのボーカルトラックがあり、右からも高めのポジションのボーカルトラックが応えてきます。仮にまんなかのリードボーカル、左パートと右パートの合計３パートをそれぞれダブリングしたとして６つのボーカルトラックが鳴ることになる。オフコースのサウンドの魔法のひとつはこうしたボーカルのレイヤーにある、といってそう間違いではないでしょう。
こんこんと注ぐ陽光のようなピアノのダウンストロークと裏拍のニュアンスのコントラストがまぶしい。右側に振ったアコギはピアノが出す和音のボディとかぶるのを避けてか、かなり高めのポジションでそのサウンドはきらびやか。私ならついエレキで弾きたくなってしまうくらいのハイフレット感があります。綺麗です。
ドラムのサウンドのほどよいミュート感。タムの質量が豊かでフィルがアクセントになります、これぞオカズ。ベースのふとした瞬間のニュアンスの使い分けもオケ、バンドとして調和します。
Ⅴの和音に乗ったあとにどっしりⅠに尻餅をつく、みたいな和音進行上のモーションがこの楽曲にはほとんどみられません。ⅤにいったあとにはⅢmに行くとかⅣに戻っちゃう。Ⅰに解決するにしても、ⅣからのⅠ。独特の、結論は全てが終わった時に自ずと決まる……とでもいうような、生きることはとどのつまりすべてが経過点であると諭される気分になります。こうした和音の解決無限先送り（勝手に仮称）が、オフコース独特の儚くもどかしくメランコリックで耽美なサウンドの一因なのじゃないかな……と、この記事を私がいま書いている水曜日の朝に想い、耽るのです。
あなたの思う水曜日のイメージはどんなでしょう。週の真ん中で、すでにもう疲れちゃったナ……って感じなのか、週の真ん中なのでまだまだやれるぞ！とやる気にみなぎるのか。なんて勝手にモチベーションをあげたいと思ったのに天気はあいにくの雨だったり？ あるいはその雨が嬉しい、自分にとってはメリットである、というタイミングのあなたも世にはいるでしょう。夕方には晴れるかな。
青沼詩郎
『水曜日の午後』を収録したオフコースのアルバム『僕の贈りもの』（1973）