ブルージーニストの落涙
(第二期と呼ばれるタームにある?)かぐや姫のファーストアルバム『はじめまして』に収録されるアルバム曲です。
好きだった人を外側から観察した具体を多様な局面・観点から挙げて行き、“失恋ということばは 知ってたけれど” のサビで結びます。その「知ってたけれど」の先をみなまで言うでもなく、余白を残します。(失恋はつらいものだと)知ってはいたけれど、まさかこれほどまでにつらくて痛くて苦しいものだったとは……! なのか、あるいは(つらく苦しく痛い痛いとは聞いていたが)実際に自分が感じるのはそういった苦痛とはいくぶん違うなぁ……という感慨なのか? その答えはリスナーの想像にまかされています。
たくさん挙げていかれる「好きだった人」の具体的な観察例も、至って普通のこと(のように私には思えるエピソード)もたくさん含まれています。
しかし、人によっては「ヘンな人だね」などと、好きだった人のキャラクターをおもしろがれそうなフックの利いた観察結果もいくつか含められていますし、最後のコーラスではレモンをかじる、海を見て落涙する、など至ってロマンチストかのような、あるいはあまりにステレオタイプなロマンチストっぽすぎてむしろ笑いをさそっているのかと思うほどです。
ブルージーンを履く、など至って日常的で、多くの人が当てはまってしまう普通のことから、だんだんと当てはまる人が絞られるようなちょっとユニークなエピソードへと歌詞の内容が鋭くとがっていく構造が、メロとサビ(しかもそのいずれも音楽的な特徴が至って単純明快)のシンプルなサンドイッチでできた曲のつくりに奥行きや色味の変化を演出していて絶妙です。
アコースティックなタッチのサウンドと可憐な歌唱の機微と、普通のことからだんだんとユニークな味わいへと深入りしていく人物造形が込められたソングライティングが魅力です。
好きだった人 かぐや姫 曲の名義、発表の概要
作詞:伊勢正三、作曲:南こうせつ。編曲:小山恭弘。かぐや姫のアルバム『はじめまして』(1972)に収録。
かぐや姫 好きだった人(アルバム『はじめまして』収録)を聴く
心のなかにあるあなたを取り出すみたいに、まんなかのグラマラスなサウンドのスリーフィンガーのギター、そして左側にひらいたストラミングのギターに支えられてコンパクトな編成で1番が歌われます。
そしてまるで都市の雑踏にまぎれて過ごす主人公と「好きだった人」の景観ごと描くかのようにバンドインして音数がふえます。ドラムはフィルインがどっかりとした質感がありますが、それ以外の「出るべきでないところ」については、まるで思い出の小箱(クッキーの空き箱とか……)にすっぽりおさまるかのごとく音量がちぢこまっています。ダイナミクスのレンジが絶妙なドラムトラックです。
右側にはハーモニカがはいっています。複音ハーモニカなのか、描線に可憐さと哀愁があります。曲が後半に進むにつれて、ボーカルにたいしてオブリガードを入れ、補完関係になっていきます。主人公と「好きだった人」の関係が進行し深まる様子に重なって思えますね。
バックグラウンドのボーカルトラックが、後半に至るといつしか「さようなら」と意味のあるメインボーカルの歌詞には書いていないフレーズで合いの手をいれはじめます。「さようなら」と、メインの歌詞のうえで明文・明言することのない心の声をささやいているみたいで、現実の外側にさらしている自分と、内側で決別の重さを抱え込んだ自分との落差を示しているかのようで、失恋って、その存在は知っていたけれど、自分が経験してみるとやっぱり重くて悲しくてつらいものなんだな……と実感しているのが、この主人公がわざと「知ってたけれど」の先を余白にした空間に込めた暗黙の思念ではないでしょうか。
青沼詩郎
参考Wikipedia>はじめまして (かぐや姫のアルバム)
伊勢正三|ISE SHOZO OFFICIAL SITEへのリンク
『好きだった人』を収録したかぐや姫のアルバム『はじめまして』(1972)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『好きだった人(かぐや姫の曲)ブルージーニストの落涙【ギター弾き語り・寸評つき】』)