旅路 藤井風 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:藤井風。藤井風のシングル(2021)。ドラマ『にじいろカルテ』(テレビ朝日)主題歌。アルバム『LOVE ALL SERVE ALL』(2022)に収録。
藤井風 旅路を聴く
ソフトでソウルフルで甘くて儚い全方面イケメンな自由で奇跡みたいな声と歌唱技術に脳までトロけます。これはアカン。全世界惚れてまうやろ(すでに手遅れ!)
エレクトリックピアノの名器といえばローズかウーリッツァーが真っ先に上がるでしょうが後者だそうです。ゆらめく甘いアタックと深く暖かい響き、それに彼の声だけで骨をうずめられそうですがオケトラックの各パートの音もいちいちかっこいい。
ドラムの音がローファイ感あふれています。3点(バスドラ、ハイハット、キック)それぞれ歯切れ・タッチとも意匠の行き届いた狙いすましたニュアンスが絶妙です。
最初のヴァースはベースが入らないのでフワフワとエレピの響きと、空中に霧散してしまいそうな彼の声が糸の先にくくられた風にゆれる風船のように漂います。
世界中の大衆音楽をチャンポンにした独自調合の煮汁からサっと引き上げたみたいに、喜怒哀楽が豊かな児童の純真みたいに和声が刻々と変化し万華鏡の中の模様みたいに表情を変えます。音楽の達人の手指が導く、譜面にしたら随所に臨時記号がつくおしゃれな和音の連なる“旅路”です。
ただでさえ甘く脳が溶けるようなヴェルヴェッド・ヴォイスなのにバックグラウンドのパートで彼の声が複数連なり、テンションを高めた上ハモやオブリガード(“なかで……”)が埋めるリズムの補完。私のメモのページがもう足りないぞというくらいに魅力ポイントが弾丸ツアーのようにめまぐるしく展開します。
ベースのトーンがシンセベースなのかな。音のサスティンの長さのキャラクターが独特で、次のコードにチェンジする一瞬まえに音のふくらみがすぼまるみたいなニュアンスです。ひとつひとつの音が収束するから、音と音の間に余白が生まれて、自由で風通しのよいサウンドが成立するのかもしれません。その秘密のひとつがこのベースの音色・ニュアンスにあるのかも。
サイドのコーラスに入るときに空中分解するようにベースがふわっといなくなる。そのサビの入りの冒頭の歌詞は“あーあ”。言葉と音楽の意匠が手をつないで私にも手を差し出してきます。“あーあ”でふわっとサウンドも気持ちも軽くなる。彼の風のように自由で普遍でどこにでも存在する、世界を祝福し世界に祝福されるためにあるかのような精神世界に私も溶けた気分になります。
最上級のホメ言葉として、イカれてるね。
あーあ
これからまた色んな愛を受けとって
あなたに返すだろう
永遠なる光のなか
全てを愛すだろう
『旅路』より、作詞:藤井風
“何なん”とか“燃えよ”とか、茶目っ気や洒落っ気が目立ったり、話し言葉(口語)のカジュアルなニュアンスを尊重した言葉づかいが随所に光る彼の諸作品の中ですが『旅路』のコーラスをしめくくるラインは音楽とそれが描く心に寄り添い手を繋ぎ導いたような全能感ある端正な言葉づかいが印象的です。
祝福される未来に向かう、この足元が旅路です。

青沼詩郎
参考Wikipedia>旅路 (藤井風の曲)、藤井風
『旅路』を収録した藤井風のアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』(2022)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『旅路(藤井風の曲)ピアノ弾き語り』)