天井 ハンバート ハンバート 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:佐藤良成。ハンバート ハンバートのシングル、アルバム『11のみじかい話』(2005)に収録。

ハンバート ハンバート 天井(シングル版)を聴く

THEシンプルな音楽構造で歌詞の情景へ自然にリスナーの注意を誘います。

佐野さん(女声)の発声のまっすぐさもさることながら、佐藤さん(男声)の発声のまっすぐで素朴な魅力も堪能できます。ボーカルメロディの起伏が穏やかで、言葉尻を長く伸ばすシンプルな音形・モチーフのリフレインを基調にした音楽性であるゆえ、おふたりの声の素朴で実直な特性が際立ちます。

コード進行はほぼスリーコードで、時折ⅣへのドミナントモーションとしてのⅠ7、あるいはトニックのバリエーションとしてのⅥmが混じるくらいで、全編のほとんどをスリーコードでつづります。部屋のなか、ねむれない。視界には天井。こんなコンパクトな情景を表現するために、音楽の理屈的な情報量も「部屋」のなかにおさまる必要十分量にとどめてある意匠を思います。

音楽・サウンド面でたのしませてくれるのはアコギのかろやかで素朴なストローク。もうこのギターと歌だけ、あっても佐野さんのハーモニカが足されるくらいでハンバートハンバートの音楽はおおむね生演奏パフォーマンスが成立します。

アコギは中央あたりから聴こえますが、時折高音弦のきらびやかな帯域が左のほうから広がってきこえることがあります。2本以上のマイクで収録して、うまく定位のバランスを中央から著しく逸脱しない範囲で広げているのかもしれません。

右のほうからきこえるフィドルは佐藤さんのオーバーダビングでしょうか。楽曲が後半のさしかかるあたりから、左側からダウンボーイングっぽい和音の刻みのフィドルトラックが足され、同時に2本のフィドルが鳴っている瞬間があります。間奏ではプレーンな音色のアコギのリードフレーズもあります。

アコギ、女声、男声、アコギソロ、フィドル、フィドル。6トラックくらいあればアレンジの設計図はじゅうぶん再現できそうなコンパクトな編成のシングル曲。いいですね。世の娯楽音楽のメインストリームにはほとんどないようなコンパクトな音景。もっとこういうのが個人的には増えて欲しいです。

ハンバート ハンバート 天井(アルバム『11のみじかい話』収録バージョン)を聴く

音数がふえて楽団の和が暖かい。

ハンバート ハンバートの音楽の母艦ともいえるギターストラミングの座はこちらのバージョンでは左定位のマンドリンに委ねられました。チャカチャカとした歯触りの軽い輝かしさと、複弦の響きの複雑さが特色です。

右にはエレキギターのオブリガード。リズムとコードなどの役割はマンドリン、ベース、ドラム、ピアノがいますから実に自由です。右定位のまま、同一のトラックのままソロギターに入るところも非常にスムースで生演奏アレンジとしても自然で好きです。世にある他の音楽への文句みたくなってしまうのも不本意ですが、よくあるのが、間奏のギターソロまではバンドのオリジナルメンバーの数ちょうどのトラック数で演奏してきたのに、間奏のソロギターになるとリードボーカルのいた中央定位を譲り受けて新たにギターソロのトラックが追加であらわれて、それまでのリズムギタートラックの伴奏もそのまま鳴りつづけている……つまり間奏のソロギターのときだけオリジナルのメンバーの数が増えるみたくなる音源が世の娯楽音楽にはたくさんあります。もちろんライブでなく録音作品なのですから、それが商品としてのクオリティを備えるための必要十分な処置・構想なのかもしれませんが……いち私の好みとしては、重要な楽器のパート数はライブのときでも録音作品のときでも齟齬(ちがい・差異)がないようにアレンジするのが審美的だと思います(間奏のとき以外はリードボーカルに専念して、間奏になったときだけリードボーカルがソロを弾き出すなんていうスタイルの音楽性があったらばそれはそれで自然かもしれませんが……あまり世にはそういうスタイルのアーティストは多くないでしょう。間奏のギターソロはやっぱりボーカリストでなくバンドのギタリストがスポットを浴びることのできる基調な資源なのです。といいつつも近年のメインストリームらしき楽曲には「ギターソロがほとんどない」という話もまま聞きますが……)。

盛大に逸脱した話を戻します。

ドラムとベース、ピアノはサポートメンバーでしょうか。ベースの音の切り方に愛がある。1拍きっかりのばして、次の拍のあたまで音をすっと止める。ただの4分音符を演奏するときにこそベーシストの真価があらわれると私は思います。ピアノはコードストロークで響きの豊かさを確保。ドラムのタムやシンバルが華やかさを添えます。ハンバート ハンバートオリジナルメンバーのお二人のアイデンティティを妨げることなく、仲間が和を広げたバンドアンサンブル。私は盛大にニヤニヤして聴いた耳福なアルバムバージョン。シングルバージョンとどっちがということなく、どちらも非常に好感の持てるバージョンです。

楽曲のキャラクターがシンプルであるゆえにか、演奏の機微やアレンジの実直丁寧なところが堪能できます。

シンプル極まる楽曲ですが、シングルとアルバムの両方で別バージョンにして扱っているところ、アーティスト側としてもこの楽曲『天井』を大事にしているのかなとも想像するのですが、ハンバート ハンバートの場合『天井』に限らず、シングル曲とそれをアルバムに入れるときのアレンジは新たにやり直す手法がごく当たり前のように多いようです。この意欲的で、しかしアルバムという統一感のある複数曲のまとまりを作る際の自然な態度にますます私の彼らに寄せる好感が膨れ上がります。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ハンバート ハンバート

参考歌詞サイト 歌ネット>天井

HUMBERT HUMBERT 公式サイトへのリンク

アルバムバージョンの『天井』を収録したハンバート ハンバートのアルバム『11のみじかい話』(2005)

シングルバージョンの『天井』を収録したハンバート ハンバートの『シングルコレクション 2002-2008』(2010)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『天井(ハンバート ハンバートの曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)