テネシー・ワルツ Tennessee Waltz 曲の名義、発表の概要
作詞:レッド・スチュワート (Redd Stewart) 、作曲:ピー・ウィー・キング (Pee Wee King) 。ゴールデン・ウエスト・カウボーイズ版の発表が1948年か。1950年のパティ・ペイジ(Patti Page)版が広く知られる。
テネシー・ワルツを聴く
佐良直美
私は佐良直美さんの歌唱のファンです。つやつやして照りがあり、貫禄があります。堂々としていて余裕があってかっこいいのです。アコースティックのギターのポキポキとした音色、ピアノのリズムの補完が軽やかなオケ。歌唱のタメ方が貫禄を感じさせる一因でしょうか。このオケと歌唱のタイム感の摩擦と調和のバランスが、独特の肝の据わったテネシー・ワルツを提案します。
パティ・ペイジ
ボーカルのハーモニーパートもパティのダブリング? 複数のパートの声が同一人物のようにそっくりです。でもパティのこの音源は1950年だといいますから、多重録音の普及にはちと時代がまだ追いついていない頃ではないでしょうか……と疑問をもんもんさせつつWikipedia(>オーバー・ダビング)をひらいてみると、なんと多重録音が大衆に認知された代表例かのように取り挙げられています。『テネシー・ワルツ』にまつわる有名な話なのでしょうか。
複数のボーカルパートのバランス感が互角すぎて、主旋律がわかりづらいくらいです。多くの場合(2024年:執筆時を生きる私の感覚としては)ハーモニーパートはリードボーカルより前に出ないようにやや奥に引っ込める……、つまり主旋律以外のパートの音量は控えめにして、主旋律の存在感を際立たせるミックスをするのが現代の音楽制作の定石かと思います。
そういう常識めいたものが形成されるよりもずっと先、ほんとうに多重録音があらわれた衝撃を象徴する音源がこのパティのテネシー・ワルツだったのかもしれません。「複数のパティがそこにいる!」という衝撃は、現代の私がこの音源を聴いても重厚に伝わってきます。へたに気を効かせてハーモニーパートの音量が主旋律よりも顕著に引っ込んでいたら、多重録音による「複数のパティ」の衝撃はこれほど大きくなかったでしょう。
おだやかな時間の潮流を演出する息のながーい管楽器はトロンボーンでしょうか。間奏でソロをとるのもトロンボーンなのか、フレーズのはしばしのポルタメントするニュアンス、スライドを揺らす感じのビブラートが伝わってきます。
間奏に入るときに、主和音を長二度あげてドミナントに読み替えて、属調に転調します。パティの音源はF調なので、Gコードを経由してC調に転調します。間奏で主和音Cに解決すると、そのままCの和音を属和音に読み替えて元のF調に戻るので、ボーカルの音域にも支障を来さず元の地平に戻ります。元の調に戻った安心感、回帰した、帰郷したような感慨をくれるから不思議となつかしい気分になります。
青沼詩郎
『Tennessee Waltz』を収録したパティ・ペイジの『Golden Hits』(コンピレーションCD、1994年)
『テネシー・ワルツ』を収録した『ゴールデンベスト 忘れ得ぬ名唱・佐良直美』(2007)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『テネシー・ワルツ(Tennessee Waltz) ギター弾き語りとハーモニカ』)