検索で音楽に出会う時代と同名異曲
私は奥田民生さんが好きなので彼の作品をかぎつけてはまわりをうろうろしています。
かぎつけてというのも、私は奥田さんの作品のすべてを知り尽くしフォローし尽くしているわけではないのです。
私の愛好心がまだまだ浅い点。奥田さんのキャリアが長く、優れた関連作品が多い点。どっちもどっちかもしれません。
『人の息子』という、奥田さん作品としてはシングル『コーヒー』(1995)のカップリング曲があります。
それを、濱田マリさんがカバーしています。
濱田マリさんってミュージシャンだったのか。深夜放送の、またたく間に鮮度のある情報をたたみかける『あしたまにあ〜な』というテレビ番組がありました。早口なナレーションで視聴者をニンマリ・ポカンとさせた名物タレント・濱田マリさん。近年ではテレビドラマ『リバーサルオーケストラ』(2023)でヴィオラ奏者の桃井みどり役を務めていました。このドラマの第3話、渋川清彦さん演じる打楽器奏者の藤谷耀司にクロースアップするエピソードのライブハウスのシーンにちょい役で私が携わらせてもらったこともあり記憶に残るドラマです。
横道の話はともかく、濱田マリさんを女優・タレント業者としてもっぱら認識していたのです、私。
モダンチョキチョキズというバンドのボーカリストとしても活躍されたのが濱田マリさん。ソロ作品もあります。
ミュージシャンとしての濱田マリさんの側面に、私は長いこと気づかないで来てしまいました。
わりと近年?(この記事の執筆時は2024年)、濱田マリさんの音楽作品のサブスクが解禁されたようなのです。それで、奥田民生さんの『人の息子』を濱田マリさんがパフォーマンスしている(実演家になっている)のに気づいたのです。
ミュージシャンとしての濱田マリさん、すごくいいじゃないか! ……と。今更で申し訳ない。もっと気づくのが遅れるよりはましだと思いましょう。何度も言いましょう。ミュージシャンとしての濱田マリさん、すごくいいじゃないか!と!(ご存知だった方には今更!?でしょうが……)。
シングル版『人の息子』by 濱田マリもあります。アレンジがまた違う。
そんな濱田マリさんのソロアルバム『フツーの人』(1995)の収録曲の作家陣を眺めるともなく眺めていて、気になった作家や実演家の名前を検索する私。参考リンク:Discogs> Mari Hamada – フツーの人
連なる作家陣の名前のなかに、遠藤京子さん。
筒美京平さん作曲の『告白テレフォン』
や、鈴木茂さん編曲の『輝きたいの』
なんてレパートリーもあるシンガーソングライターなのだなと認めながら、目に止まったのが、遠藤さんがイルカさんに提供した楽曲『手をつないでもいいかしら』。
イルカさんのアルバム『おさなごころ』(1996)収録曲のようですが、サブスクでヒットしません。未解禁なのかも。
と、検索の本命はサブスクでヒットせずも同名異曲がサブスクで聴けます。その名もロウィナ・コルテスさん。しばしば、検索の本命よりも偶然挙がった別のものに惹かれてしまうことが私は多々あります。それもまた嬉しい発見なわけで……ここでようやく本日のこの記事の主題の曲にたどりつくわけです。ああ。長かった。
私が初めて知った名前、ロウィナ・コルテスさん。たとえば、アグネス・チャンさん……のデビュー年ともまた多少時間的な開きがありますが、異国出身者っぽい名前をしておきながら日本語で歌うアイドル歌手路線……なんてカテゴライズもまたひどく粗雑ではありますが確かにひとつ、そういう畑(ジャンル)もあるといえばあるでしょう。
私の関心アンテナがスルーするサウンドであればこうして記事にすることもない。同名異曲を検索してたまたま出会ったものが、良かったのです。
ロウィナ・コルテスさんは「露雲娜」(発音もできないし読み方もわからない私……)の名で香港出身の歌手としても知られているもよう。日本語オリジナルの歌をいくつもカバーしています。
手をつないでもいいかしら ロウィナ・コルテス 曲の名義、発表の概要
作詞:林まさとし、作曲:田中ルミ子。ロウィナ・コルテスのアルバム『Oh, My Love』(1977)に収録。
私の検索ではあまり情報が多くネットで拾えないのですが、作曲の田中ルミ子さんに関する参考になりそうなページへのリンク。広島生まれでいらっしゃるようで、土地と縁の深い活動をなさっているようにうかがえます。
作詞の林まさとしさんについても、私の検索では〜以下同文なのですが、ヤマハのポプコンのアーカイブページがヒットしました。
これによれば、1975年に開催された第10回の出場者:高橋貴代美さんによって『手をつないでもいいかしら』が歌唱されています。ロウィナ・コルテスさんがオリジナル歌唱者ではなかったのです。あるいは、楽曲『手をつないでもいいかしら』の実演を円盤に固定した最初の歌手でいえば、ロウィナ・コルテスさんがオリジナルなのかもしれません。
『手をつないでもいいかしら』の生演奏による最初の実演家である可能性がある高橋貴代美さんについて、私の検索ではやはり情報が多く拾えません。上記のヤマハのポプコン第10回のページのところに、高橋貴代美さんの出身支部が広島となっています。作詞・作曲の林さん・田中さん、歌唱の高橋さんら、いずれも広島にゆかりのある方なのでしょうか。
作詞の林まさとしさんの作品をJ-WIDで検索すると、田中ルミ子さんを実演家とする作品での登録作が7件ほどみつかります。版元がビクター。先述の田中ルミ子さんのプロフィールがある貴重なページに“1979年、ビクターよりデビュー。”とありました。このときのデビュー作品群が、田中さんと林さんコンビによる仕事のように推察できます。
ロウィナ・コルテス 手をつないでもいいかしら(アルバム『Oh , My Love』収録)を聴く
これまた編曲・演奏・歌唱が素晴らしい。右のエレキと左のアコギが対にになります。ドラムがインする前のAメロのトライアングルに感嘆。ほわほわと空間を漂うエレピのサウンド。チェンバロ系の古楽器の類、そしてグロッケンが輝かしさを訴える帯域を飾ります。ストリングスが麗しくノート(音程)の糸を引きます。ボーカルのあいまをうめるフルートのオブリガードや間奏が洒脱です。
ロウィナ・コルテスさんの確実・精緻かつ愛らしく、情感に富んだ歌唱が魅力です。歌詞“心に 心に”に続く、“決めたから”のところの力の抜き方が可憐で儚げです。心に決めた意思であっても、未来には不安も不明瞭も多いのが若い恋でしょう。
メロディが細かく小刻みに動きます。音型の反復がメカニカルできれいです。ソングライティングが端正。シングルのような華々しさ・独自性の強い曲想ではないですが、若さや恋を回顧する気持ちになって聴くに沁みる曲です。こういう曲を、同時代のティーンズはどう受け止めたのでしょうね。未知です。
Discogsサイトによれば、編曲者は大村雅朗さん(リンク先下記)。名実ともなうお方でしょう。
青沼詩郎
参考サイト Discogs>Rowena Cortes = ロウィナ・コルテス* – Oh, My Love = オー・マイ・ラブ
『手をつないでもいいかしら』を収録したロウィナ・コルテスのアルバム『Oh, My Love』(1977)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『手をつないでもいいかしら(ロウィナ・コルテスの曲)ギター弾き語り』)