ストーリー・テリングが秀逸で抜きん出たものを感じます。
恋バナを友人に聞いてもらったり相談に乗ってもらったりしている主人公と、友人の「あなた」のイノセントな関係を、ふたりの間に起きた些細な出来事やイベント、仕草などのディティールを描くことで語らせています。見習いたいですが付け焼き刃でこれをできる気がしません。吉田美和さんの天性だと思います。
その歌声もまた天性ですね。圧倒的な存在感と、失恋の翳ったニュアンスの可憐なさま。これについてこられるのは誰か?ご本人のみだろう、といわんばかりに、メイン・ボーカルパートにオブリガードしたり歌詞ハモするのは吉田美和さん自身のオーバーダブ。「手〜を〜」と私の耳には聴こえる印象的なバックトラック的なボーカルパート。跳躍が大胆かつシンプルなフレーズで、天から降って来るような極楽感を醸しています。
極楽感でいえばイントロの異様なエレキギターでしょうか。音質をエイジング加工したような、どこか別の場所の演出のようなものを感じさせ、本編が(くだんのボーカルパート「手〜を〜」(?)とともに)始まると一気に解像度をあげたようなサウンドで、オープニングの「汚し加工」的なソロギター部分とのギャップで極楽感が増します。クリーンなアコースティック(ナイロン弦?)のギターのクレバーな演奏も極楽感にひと役買っていますね。
ドラムスは打ち込みでしょうか。ダイナミクスに差をつけて装飾したようなスネアの「……タタンッ」というフレーズが、安定した強拍のキックの恒常性とともに歌を映えさせます。それに沿うようなシンプルなベースの選り抜いたストロークも愛です。ハイハットが担ってもよさそうな細かい刻みはシェイカーのような「サッ」「シュッ」系の軽い小物が演出している点も極楽感を私ににおわせます。
主人公が、一緒にいてもらって「サンキュ.」を伝えている相手は同性の友達かなとも思うのですが、注目したいラインを紹介します。
“‘ちょっとカッコ悪いけど 髪切るならつきあうよ’なんて 笑っちゃったじゃない”(『サンキュ.』より引用、作詞:吉田美和)
案外、主人公が女性だと仮定した場合、あえて男性の友人を想像すると“笑っちゃったじゃない”と主人公を笑わせたジョークの「トボけ感」が秀逸になる気もします。いやいや、そういうのフツウ同性(ここでは女性同士、とさせてください)の友達がやるやつじゃない? 何言っちゃってんの、もう……。でも和んだわ。今日はほんと、サンキュ。
……みたいな感じです(妄想)。
こういう妄想をさせてくれるのも、私がヘンなんじゃなくて、ひとえに吉田美和さんのストーリー・テリング、物語描写が秀逸であるためです。もちろんそれを含む演奏、アレンジ、楽曲全体。あなたもこの曲に共感をもらったり、私のように想像をふくらませたり、なにか小さくツッコミを入れたりしたのではないでしょうか。それきっと、ドリカムの手の内では。
青沼詩郎
DREAMS COME TRUEの『サンキュ.』を収録したアルバム『DELICIOUS 』(1995)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『サンキュ.(DREAMS COME TRUEの曲)ギター弾き語り』)
ドリームズ・カム・トゥルー
ドリカム