私とあなたの仲に調和を
吉田拓郎さんのバックバンドを務めもしたグループ、「猫」を聴いていて『コスモス』という素敵な曲を見つけましたが作曲者名義をみると別人。カバー曲であり、原曲のタイトルは『The Peacemaker』でした。日本語バージョンの訳詞を独自につけたカバー曲だったのです。
猫バージョンの『The Peacemaker』あらため『コスモス』は岡田冨美子（おかだふみこ）さんによる訳詞です。パンチのある、深くて燻銀なボーカルは猫メンバーの内山修さんによるものでしょうか。迫力とわびさびに満ちてます。
アルバート・ハモンドによる原曲の歌唱は痛切で鋭い質感もあり、特に歌い出しの“Get out, damnit”と吐き捨てるようなフレーズが印象的です。アコギやスネアのストロークで出す、32分割のキメがサウンド面でのアクセントにもなっていて、おのれを揺さぶる世の中の有象無象、雑念を刹那にかき消すかのような瞬発力が要所に込められています。
caretakerやpeacemakerといった単語からは、間をとりもつ存在、調和などの観念を思います。コスモスの花言葉には「調和」の意味があるそうなので、原曲の歌詞にコスモス（cosmos）の単語は一度も用いられていませんが、原曲の意味と花言葉の接点から「コスモス」というタイトルを導いたのかなと想像します。
The Peacemaker Albert Hammond 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲：Albert Hammond・Mike Hazlewood。Albert Hammondのアルバム『The Free Electric Band』（1973）に収録。
Albert Hammond The Peacemaker（アルバム『The Free Electric Band』収録）を聴く
丁寧なアコギプレイのイントロ。左にリズムとコードのストラミング、右にハーモニックなサウンドで歌うようなアコギがそれぞれいます。
丁寧で誠意あるプレイだなぁと聞き惚れていると、すぐさまタイトにリズムを出し始めるのです。
ボイーンとベースがピックのサウンドでエッジを加えます。
ドラムスが唐突に入ってきたかと思えばすぐひょいと抜けていく。かと思えば、またバンと1発アクセントして入ってくる。ピアノもバイーンと低音に厚みを添えたかと思えばドラムと共にまた息をひそめます。
熱量に起伏のあるベーシックリズムを背景に、リードボーカルのはっきりとした線と安定した質量が常に聴き心地に対しても安定感をもたらします。単一のボーカル線のニュアンスの豊かさがヴァースの情報量を占めますが、コーラスではハーモニーのトラックも入ってきて音像がワイドになります。
調和よ永続せよとの願いかと思わせるフェイド・アウトでエンディング。
ドラムのプレイ、サウンドにもエッジ、鋭さや瞬発力があります。アコースティックなサウンドの余白のある質感を活かしつつ、活動的で振れ幅のある演奏が魅せます。
猫『コスモス』（アルバート・ハモンド『The Peacemaker』の日本語カバー、猫のアルバム『猫5 FOR LIFE SPECIAL EDITION』に収録）
からりとした、それでいて豊かな響きのアコギが左右から鳴り、ワイドな音像です。儚くせつない匂いが香りはじめるその瞬間の叙情のよう。コスモスの花の匂いって、そんなフィールなのでしょうかね。リードプレイのアコギも入ってきているときは同時に３本のアコギが鳴っている様相でしょう。
ドラムレスで、コンガがリズムを牽引します。原曲は16分割のフィールを基調にしていますが、猫バージョンは8分割のフィールで、テンポを早めて自分たちの独自の雰囲気をうまく作っています。
ぱっと伴奏を止めて、グループの声のハーモニーで魅せて、ずうんとベースの合図でバンドが復帰するところが、全体に安定した音量と雰囲気を保つ１曲の中での聴き心地に的を絞った変化を与えます。
リードボーカルは内山修さんでしょうか、猫のレパートリーにおいて私は彼の声のユニークさに魅了されることしばしば。ちょっとがさつな表層の質感、そのフィールを自覚しつつも己や周囲の繊細な心とのはざまでせめぎあうような歌声がブルージーでなんとも魅力的なのです。
すべての心と世界の空に、花の色や香りに和む調べよ漂え。
青沼詩郎
参考Wikipedia＞The Free Electric Band (album)
『The Peacemaker』を収録したAlbert Hammondのセカンドアルバム『The Free Electric Band』（1973）。彼のファーストアルバム『IT NEVER RAINS IN SOUTHERN CALIFORNIA』との組み商品がある模様。
『コスモス』を収録した『猫5 FOR LIFE SPECIAL EDITION』（2008）。2005年の『猫5』オリジナルと2007年『猫5（スペシャルバージョン）』をには未収録で、フォー・ライフエディション2008年に『コスモス』がボーナス・トラックとして収録されました。
ご寛容ください 拙演（YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】私とあなたの仲に調和を『The Peacemaker（Albert Hammondの曲）』ギター弾き語りとハーモニカ』）