手垢のつかない際立ち、飛翔する清涼

ファルセットといえようか、コーラス(サビ)で上にスコンと抜けるリードボーカルの音形、質感が清涼で天国に届きそう。この曲を頭の中で思い出すとき、そのイメージが検索のトップヒットみたく私のスピーカーから鳴り出すのです。

バンド名名義のアルバムに収録された目玉曲といっていいでしょう。そしてこのバンドの名前で出したアルバムはこれ一枚のみ。しかも制作に年数をかけた上、挙句の果てにはメンバーが最後まで発表に納得していなかったとまでのエピソードがあるそうです。その甲斐あってこの独特の耽美があるのか、あるいはメンバー全員が納得するまでもっと発表を延期していればもっと違ったものが出来たのか分かりかねますがそんなことにはきっと美の神様も興味がないでしょう。

この曲を収録したアルバムを通して聴いていると、楽曲の曲想の振れ幅、豊かさにうなります。清涼な印象のこの楽曲が来たかと思えば、1960年代くらいに表敬したみたいなオールディーズライクなサウンドがやって来たりとリスナーの心地を揺さぶる妙があります。

『There She Goes』はシンプルなドラムパターンとそのサウンドを幹に、アコギのストラミングの左右の広がりあるサウンド、トントン……とエイトを刻むプレーンな印象のエレキのリズムにタンバリンの2・4拍目が彩りを添え、レイヤーと奥行きに幅のある補佐的なボーカルが空間を豊かにし、前述のリードボーカルの清涼な展開が中央で飛翔する、そんな印象です。

2025 tourが話題のOasisも、The La’sの音楽を評価しているなんて話をみかけたこともあるのにも納得する、手垢のつかない独創的な高みを思う傑作です。

There She Goes The La’s 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Lee Mavers。The La’sのシングル(1988)、アルバム『The La’s』(1990)に収録。

The La’s There She Goes(アルバム『The La’s』収録)を聴く

印象で大きいのはやはり飛翔感、清涼感のあるリードボーカルのライン。また、ちょっと躍起になったような、どこか自暴自棄の傾向が潜んでいるような、光にひたむきな反面、心に影を隠したような、ざりっとした質感のボーカルの声の質感にせつなさを感じます。心がきゅっとなります。えぐられるものがあります。

ついで印象が大きいのが、12弦のギター。エレキギターでしょうかね。ボブ・ディランの楽曲をThe Byrdsがカバーしているのも有名な『Mr. Tambourine Man』のあのサウンドに通じます。

この12弦ギターのアルペジオリフレインが、イントロで、半拍(8分音符ひとつぶん)、小節線から前にはみ出してアウフタクトになっています。このため、音の出だしを強拍だと勘違いしてしまう私の脳は、ドラムがインしてきてリズムパターンが恒常的になった瞬間「また騙された!」の嘆きを吐き出すのです。

Aメロ(ヴァース)が美しいんですよね。こういう楽曲の傾向は、どこか私の敬愛するfrom京都のバンド、くるりの作風に通ずるところもあるかもしれません。

コンパクトながら展開に富む構成もみどころです。イントロ相似形の間奏を減ると、ヴァースのボーカルパターンに対してコードをⅥmに置き換えて雰囲気の入れ替えを図るところなど妙です。ヴァースの再現の変化球と解釈しうるのにもかかわらず、当該部分がまるでブリッジのように機能してもいる錯誤の妙味があります。たった4小節の変化球を経て、本当の意味でのブリッジ(歌詞”She calls my name”で始まる部分)然とした部分がやってきます。コードチェンジの頻度がちょっと増して、動きが出ます。

シンプルに思えるのですが、コピーアンドペーストしたような繰り返しが構造的に見たときには少ないのです。ちょっと何かの変化が兆している。それって、革新の未来をイマジネーションさせる旗を持って先頭を走る人みたいじゃないですか。この旗のゆらめきに惹かれて後を追うバンドやアーティストはいまだに途切れないことを思います。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ラーズThe La’s (album)

参考歌詞サイト JOYSOUND>There She Goes

『There She Goes』を収録したThe La’sのアルバム『The La’s』(1990)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】飛翔する清涼『There She Goes(The La’sの曲)』ギター弾き語り』)