まえがき
1938年にケイト・スミスが歌い、さかんにラジオから流されたという『God Bless America』へのカウンターとしてWoodie Guthrieが作ったのがこの『This Land is Your Land』だといいます。
私の印象としては、『God Bless America』の精神的目線は神や国そのものに向いており、強いて批判的な立場をとるなら宙に浮いていて具体性に欠ける、やや盲目的な傾向があると解釈することもできそうなので、そこに対する違和感から、ガスリーは同じ地平上で暮らす仲間同士、一人ひとりの人間個人同士に視線を向け、お互いを固有の存在として具体的にしたためあうことを歌いたかったのかなと私は想像しました。
ガスリーの『This Land is Your Land』のメロディは、カーター・ファミリーが歌った『When the World’s on Fire』(1930年)のメロディを参照しているようで、聴き比べるとよく似ています。
なぎら健壱さんが歌った『汽車が見えたら』のメロディも『This Land is Your Land』(あるいは『When the World’s on Fire』)が参照元のようです。
大衆の生活様式に大きな影響を与える大量生産、好景気の1920年代のアメリカは株価の過大評価を背景とする大恐慌へと向かっていき、1930年代に入ると「大ホーボー時代」といっていいのかもしれません。ガスリー自身も、さすらいの生活を経験しているといいますから、『This Land is Your Land』の作詞作曲にそうした時代背景が影響を与えていることは客観的に事実といえると思います。
This Land is Your Land Woodie Guthrie 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Woody Guthrie。1940年に作詞作曲。オリジナルの正確な発表媒体やその形式・時期が私のネット検索程度だと特定しかねます。
Woodie Guthrie This Land is Your Land(『This Land Is Your Land: The Asch Recordings, Vol. 1』収録)を聴く
声のレンジは音質的にも、またメロディの音域的にも非常に絞られていて淡白です。音質については時代が時代なので当然でしょう。ハイとロウが落ちているような、まるでラジオの電波と家庭のスピーカーを通して聴くような音質。それがガスリーの声のキャラクターと相まってやたらに沁みるのです。
演奏自体も淡白で、つらつらと同じような抑揚をつらねます。激昂することもなく、おちくぼむこともない。大陸をわたる線路をとぼとぼと行くような、しかし止まることもなくそのひぐらしが続くような、安寧の幻を求めてさまようもの同士の「ケ(日常)」を思わせて沁みるのです。
ギターはカポを用いてポジションを少し上げているのか、軽い響きです。E♭調に聞こえますが、マスターのレコードやらテープなんかの回転数の問題でキーにどれくらい揺らぎがあるかわかりません。
1960年代にもアメリカでこの曲のリバイバルの動きがあったそう。ボブ・ディラン、ピーター・ポール・アンド・マリー、『グリーン・グリーン』を歌ったニュー・クリスティ・ミンストレルズなどもこの『This Land is Your Land』を歌いました。さすらうもの同士に寄せる視線が、一人ひとりのリスナーや歌い手の心に向けられているのをそれぞれが感じられて、時代を超えて「これは自分の歌だ」「おれも歌いたい」となるのかなと想像します。おれも歌う!
青沼詩郎
参考Wikipedia>This Land Is Your Land
This Land Is Your Land – Woody Guthrie Lyricへのリンク
『This Land is Your Land』を収録した『This Land Is Your Land: The Asch Recordings, Vol. 1』(2024年再発、オリジナルは1997年か。)