ハナレグミ ティップ ティップ
私制作な雰囲気がたちこめる音場。部屋の鳴りがボーカルのうしろに聴こえます。デッド(響かない、余計な余韻のつかない)なスタジオで録るとこうはならないでしょう。どんなところで収録をおこなったのでしょうか。宅録の延長、自分や友人・知人の個人宅やその制作拠点、アトリエみたいなところで仲間とシャコっと気味よく収録をおこなったような……それこそ輪、和のある雰囲気がいっぱいに出ています。
ほとんど弾き語りの様相かな……とおもってここちのよいギターの伴奏と歌に聞き惚れていると、Bパートでドシャーンとドラムス、バンドが入ってきます。ロッドで叩いたような、バシっと衝突音がマイルドなサウンドですね。でもベースも含めて音が太いです。右のほうからはギターのヴァイオリン奏法、ボリュームを絞った状態でストロークしてからボリュームを上げることで音の立ち上がりを闇に葬る変わった奏法でしょうか。おばけの登場の演出みたいな音にも感じますし、リゾート感あるサウンドにも感じる不思議で魅力的な音が出る奏法です。天国とか霊的なものを感じさせますね。
左側にはかわいい声で字ハモするボーカル。永積さんのセルフハモなのか、あるいは……。作詞の若葉サイクルは誰なのか気になりました。YouTubeでみつけた投稿によれば、原田郁子さんと永積さんが即席で組んだユニットが若葉サイクルなのだといいます。じゃあ、先述の字ハモは原田さんだったりするのでしょうか。ハナレグミご本人の声に聴こえる気もしますし、女声のようにも聴こえます。
エンディング、まさに最後の一打のドラムスのシンバル、マレットワークでしょうか。シンバルの、すっぴんっぽいサウンドの切れ側の余韻がほんとうに家っぽい。楽器自体の個性、ありのままの倍音の出方まで感じられ、親近感を覚える音です。
SUPER BUTTER DOG ティップ ティップ
ジョー・ダッサンのオー・シャンゼリゼを思い出すハナレグミのパフォーマンスですが、
ハナレグミのものはセルフカバー、つまり永積さんが組んでいたバンド、SUPER BUTTER DOGがオリジナルと。聴いてみてびっくりしました。全然違うからです。冒頭にも書きましたがシングル『外出中』収録のカップリング曲です。
右側で轟くデジデジ感ある音は……鍵盤のプレイなのでしょうが、なんの音でしょう。オルガンの音でしょうか。かなり歪んでいます。アンプに突っ込んでゲインをぐりっと利かせた感じで、音が延々と伸びる、サスティンの強くまっすぐなサウンドが、アナログっぽいのに「デジデジ」して感じます。
左ではエレキギターのするどくファンキーなカッティング。ベースのプレイも細かいです。ドラムスの中央の存在感がロック。タッタカ、スネアのアクセントが強く効いていますね。グルーヴがハナレグミのセルフカバーの跳ねた、スウィングした感じと全然ちがいます。8ビートを基調にしていてロックバンドっぽいですね。随所でリップロールみたいな、口や声で遊んだ音が茶化します。バンドのプリプロそのまま入れたれってGOサインした雰囲気があります。
外出中、コード、ティップ ティップの3曲収録。1998年のシングル作品。12センチのマキシです。3曲というのがいかにもCD時代らしい。アナログのシングルレコードだったらAB面で2曲ですもんね。この3曲がならんで、シングル作品『外出中』というのが、とても素晴らしい出来なのです。CDっていいな! クールです。演奏はホット。私はハナレグミのセルフカバーきっかけで取り寄せました。買ってよかった。
ハナレグミは宅録。SUPER BUTTER DOGは、私が勝手にそう感じただけですがプリプロみたい。なんか、こういうチカラの抜けたパフォーマンス自体を「完成形」のほうに引き寄せる、カジュアルな魔性のある楽曲が『ティップ ティップ』なんだと思います。
青沼詩郎
参考Wikipedia>帰ってから、歌いたくなってもいいようにと思ったのだ。
ユニバーサルミュージックジャパンサイト>ハナレグミ>帰ってから、歌いたくなってもいいようにと思ったのだ。
やはり、ハナレグミ氏のホーム・レコーディング、つまり宅録とのこと。リラックスしたやさしい音、私服で素朴な音がつまったアルバム。
『ティップ ティップ』を収録したハナレグミのアルバム『帰ってから、歌いたくなってもいいようにと思ったのだ。』(2005)
『ティップ ティップ』を収録したSUPER BUTTER DOGのシングル『外出中』(1998)
永積 崇 Takashi Nagazumi
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ティップ ティップ(SUPER BUTTER DOGの曲)ピアノ弾き語り』)