まえがき ドリルソングと美曲の対極

ドリルソング MR. BIG」などとテキトウな文字列で検索しても容易に動画にたどりつくことができるでしょう。ミスター・ビッグ。

ヘビィなサウンドやテクニカルなパフォーマンスを得意なレパートリーとするバンドについては、私はあまり多く触れてきたわけではなく、どちらかというとボーカルのメロディや歌詞、それを支えるコードの意匠美に比重のあるバンドやシンガーソングライターの音楽を好む傾向にある私ですが、それでもMR. BIGは高校生くらいのうちに触れた貴重なバンドだったように思います。ポール・ギルバートのソロ名義も良くて……ギターで引くメージャーセブンスコードの魅惑に私をおとしいれたのはポール・ギルバートのソロ曲だったなと思い返せば行き当たります。

と、MR. BIGからポール・ギルバートのソロの話に逸れてしまった話を戻します。

そんな奇天烈痛快で疾走感あふれるテクニカルな楽曲で有名なMR. BIGのレパートリーが『Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song) 』でしょう。電動ドリルの先端にピックを取り付けて、猛烈なトレモロピッキングするパフォーマンスを間奏に取り入れた物珍しさも手伝って楽曲を有名たらしめています。

そんなエキセントリックで突進力ある楽曲とはまた極端に位置する美曲が『To Be With You』です。これ、“ドリルソング”と同一アルバム収録なのがシンジラレナイ(真実です)。

To Be With You MR. BIG 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Eric Martin、David Grahame。MR.BIGのアルバム『Lean Into It』(1991)に収録。

MR. BIG To Be With Youを聴く

キミと一緒になりたいやつはいっぱいいるよ。僕が次になれたらいいんだけど……みたいな、多にとりまかれるあなたと主人公の構図を思わせるせつなくてスウィートなラブソングです。

演奏がいちいちうまい。パートの構成はシンプルなのに。ボーカルのシャウトとソフトが半々で混ざったような激しさとメロウさの振れ幅の同居よ。

アコギのストラミング主体ですすむ楽曲。ソロプレイもアコギです。途中で猛烈に低音弦を指板にぶつけるような激しいアクセント。ベースも弦を押さえた指がハンマリングオンとプリングオフで細かく歌わせます。

ドラムはキックとシンバルのみでしょうか。ハンドクラップが厚く、2・4拍目のスネアの役割を担います。

バックグラウンドボーカルが多いしハンドクラップの数も多い。楽器の構成はごくシンプルなのですが、音の数は決して少なくない。もちろんハンドクラップとかバックグラウンドボーカルとかひとまとめにパート名をつけてしまえばコンパクトなアレンジなのですが、そこに割かれた人数が多い。多重録音による仮想上の「大勢」なのか、じっさいに「大勢」でレコーディングをおこなったのかわかりません。裏方もひっぱり出せばわざわざスタジオミュージシャンを呼ぶ必要もないでしょう。とりまいている人みんなを動員してみんなで歌って手を叩いたみたいな輪を感じます。

しかし君と一緒になれるのはひとりだけなのです。どんなに取り巻きが多くてもね。特殊な多対多や一対多の恋愛やパートナーシップを志向する人たちでもない限りは……

コーラスの歌詞にgreen and blues。ムードリングのことを歌っているそうで、気分が変わるのにあわせて色も変わる不思議な指輪があるのだとか。君を想うゆえに、列にならびながら気持ちがぐらぐら変わって振り回されてしまう主人公の比喩でしょうか。詩的なラインが光ります。気持ちはグラデーションですね。

青沼詩郎

参考Wikipedia>リーン・イントゥ・イット

参考歌詞サイト KKBOX>To Be With You

MR. BIG ウドー音楽事務所サイトへのリンク

『To Be With You』を収録したMR. BIGのアルバム『Lean Into It』(1991)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『To Be With You(MR.BIGの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)