Today 加藤和彦 曲の名義、発表の概要
作詞:安井かずみ、作曲:加藤和彦。加藤和彦のアルバム『ガーディニア(GARDENIA)』(1978)に収録。
加藤和彦(アルバム『ガーディニア(GARDENIA)』収録) Todayを聴く
今日ってなんだったんだろう。今日は今日で、これからはじまるものもあればもう終わっているものもある。何時に“今日”を想うかで今日のイメージは全然変わってしまう。
加藤さんの『Today』は……一日の終わりのタメイキみたいなイメージがします。歌詞の内容はともかくとして。
おしゃれなんですよ。世界中のスタイルを着こなして自分のものにしてしまう。世界中のテクスチャが加藤さんの肌ざわりそのものなのです。
ちゅるちゅるとすべるような……なめらかなエレキギター。ぴちゃんキランとエレクトリックピアノの音色がふわっと夜空に浮かぶみたいなサウンド。
ベースはフレットレスベースでしょうか。どくとくのぐもぐもっとしたサウンド。リードをとるみたいに高いポジションに浮き上がります。楽曲全体の軽妙洒脱な雰囲気に貢献……というか、軽妙なのにその礎になっているのがこのベースのサウンドと演奏にほかならないでしょう。
ドラムはドゥシっ!と短く、トリムの効いた感じのサウンドでベースと相まってかろやかな楽曲の印象をささえます。ハイハットの音色がむちゃんこ明るいよね。このハイハットだけでもうなっちゃうわたし。
パーカッション類のサウンドが楽曲のテクスチャの重要な駒。ペカンパカン甲高い膜もの。ボンゴの小口径なものなのでしょうか? これほどまでに甲高いラテンパーカスもなかなか聴けません。軽くて、それでいて緊張感が高いです。
トライアングルが、瞬間的に2トラック(2パート)同時に鳴っている瞬間がありませんか? トライアングルってそういう使い方するっけ? という驚き。クローズドの音色での刻みと、オープンの音色で輝きを描き込み聴き手の視線をリードするトライアングルが同時にいるのです。一個のトライアングルはベーシック的な機能を、一個のトライアングルは上物の機能を、といった具合にそもそもポジが違うのです。同一の楽器でもこのように機能や役割をすみわけられるのは、ギターやピアノなどの万能な楽器なら常識かもしれませんがトライアングルでそれを私に思わせる見事よ。
女声は笠井紀美子さん。加藤さんのあたたかく純朴な男声のオクターブ上に繊細な線を描きます。
エレクトリックピアノのリードプレイが坂本龍一さんだとか。交友(?)関係まで華やかかよ。
“今日が終りを告げ 部屋に灯りをつけ Wh-today その後姿 Wh-today とりとめもない夜 今日が終りを告げ 過去を増やしてゆく Wh-today 不思議な martini Wh-today ただそれだけの一日 出来ればきれいなまま 箱に詰め しまいたい カメリアの香りをそえて今日を……”
(『Today』より、作詞:安井かずみ、作曲:加藤和彦)
冒頭のボーカルの狭い旋律音程をうようよするメロディラインが究極にアンニュイなんですよ。「今日が……」と、主題の単語を歌うところでこのアンニュイうろうろ。これが、今日ってなんなんだろう。私にとって、なんだったのだろう……と思わせる所以。ポカンとしてしまい、浸ってしまう。無の海にドボン、ぶくぶく。
「今日が」の歌い出しのコーラスからはじまって、Wh-todayのあたりのほうがヴァースっぽく感じます。
martiniはカクテルだと思いますが、「街に」という日本語とのダブルミーニングを感じます。martiniはジンベースのカクテルだそう。これがマティーニの味・香りである!という記憶の定着が私にはありません。カクテルの名前として聞いたことはあります。オトナのアソビが私には足らないのか。
カメリアも記憶のなかにどんな香りなのかが私から引き出されない。要はツバキ(椿)のことかな? 椿(=カメリア?)の香り……くらいは知っているのが教養のあるニホンジンなのかもしれませんが……(以下、直上の段落末と同文)。
自分の知らないことの宇宙に浸されて私はポカンとなってしまっているのかしら。加藤さんのシャレオツマジックの眷属です。Today。知っているようで知らないもの。自分でデザインするもので、取り巻かれ、ほだされ、どこかに連れて行かれてしまう首謀者、Today。
今日ってなんなんだろう。私のものでありながら、どこまでも自分の外側にあるもののように思えます。
青沼詩郎
『Today』を収録した加藤和彦のアルバム『ガーディニア(GARDENIA)』(1978)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Today(加藤和彦の曲)ギター弾き語り』)