やがてGood Morning!

平易なリズムの歌い出し。イントロもなしにさらけだすありのままの姿。その恒久性を祝福する態度が現れる華やかながらも実直で明瞭なサウンド。ペンタトニックの哀愁あるメロディの磨かれた感性がとこしえの闇に光ります。

8分音符割り付けのリズムがやさしいAメロ。ほぼ1小節を埋める、がっつり前にはみ出したアウフタクトで「こんな心を」……その直後ほぼ1小節をがっつり休符にして次のフレーズ「誰に見せるの」を迎えます。リスナーを置いてけぼりにしない優しい展開です。

Bメロ(ブリッジ)「海の匂いの霧を」……のところにさしかかるとボーカルメロディが16分の細かい割り付けになり、それまでのAメロの譜割りとの対比で緩急が生じます。安定したリズム・ビートトラックに乗って、心の揺らぎを表現しつつも、恒久な精神活動の輪廻と末長い安寧を祈る曲調が尊く胸に沁みます。

安定感のある曲調ですが、ワンコーラスを歌うといきなり大サビ「明日に何があるのか知らない」に突入します。メロ・サビ・メロ・サビ……といった具合に2コーラス程度を経てから冗長感を打開するためにこうした大サビ展開を迎えるのがJ-POPソングの一定型だと思いますが、本曲では大サビを1コーラスののちに早めに迎えているところがユニークです。

誰しもに対して、順調に就学・進級・進学・成人・就職とステップを踏んでから試練(大サビ)が与えられる……なんて運命は生優しいものではありません。変化や転機は、あるとき突然訪れるのです。さまざまな因果を読み解けばそれももちろん、風が吹けば桶屋が儲かる的に前後関係の序列のもとに与えられる試練だったとしても……。

そうした起伏を長い目で受け入れる恒久な態度が、本曲の安定したビートや磨かれたボーカルメロディ、おおむねシンプルに導かれるコード進行にはうかがえます。エンディングのフェード・アウトが何より主題の「とこしえ」の意匠です。

“明けてゆく Mid Night とこしえにGood Night 変わらないもの何もない この世界に とこしえにGood Night ”(『とこしえにGood Night(夜明けの色)』より、作詞・作曲:松任谷由実)

とこしえ≒恒久性を思わせる安定した曲調を有しつつも、その脆弱性を指摘するかのように「変わらないもの何もない」とし、儚く幻のような「とこしえ」に対して Good Nightと別れを告げます。万物は流転するものとの悟りでしょうか。

あるいはあくまでGoodbye(別れを告げるときの常套句)ではなく「Good Night」としているのが本曲の味噌。夜を迎え、あなたにGood Nightを告げれば、やがて夜は明け、Good Morning! のひと声をかける機会が訪れるはずなのです。それまでの猶予を映した儚さが、安定感のある曲調の奥に秘められた本曲の醍醐味でしょう。

とこしえにGood Night(夜明けの色) 松任谷由実 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:松任谷由実。松任谷由実のアルバム『Delight Slight Light KISS』(1988)に収録。

松任谷由実 とこしえにGood Night(夜明けの色)を聴く

おそろしく明瞭な楽器トラックのサウンド、演奏のニュアンスが素晴らしい。まっすぐフラットなニュアンスにみえて、ドラムトラックのハイハットのオモテとウラのニュアンスにこめられた叩き分け。それからエイトビートを基調にしているようでベースのゴーストノートのわずかな含ませ方にグルーヴがあらわれます。1小節を16分割?あるいは32分割くらいで感じているかもしれない。平易な曲調の奥行きはこうした演奏の質感に込められた底抜けな(とこしえな)技量によって担保されます。

トントンと軽いエレキギターの音色もグルーヴィーです。

複数のトラックの音の織りなす減衰と残響の対比がすごくて、透明な空間が表現されており、そこにただならぬピーク感をもつユーミン(愛称で失礼します)の歌声がとこしえの闇においてさえダダ漏れの強い光を放ちます。

演奏の音がタイトで、そのタイトさによってリバーブによる空間表現が激映えしているのかもしれません。

サックスの音色が憎いですね。大サビはボーカルトラックが重なっていて、大サビ出口のフレーズ「心配しないで」のフレーズに別の歌詞フレーズが重なっています。「明けてゆくMid Night」と歌っているように聞こえます。そのロングトーンに重なってサックスソロ。エンディング付近でもサックスのカウンターが効いてきます。

タイトな楽器の演奏による空間の風通しの良さに、ジュンジュンと液体のようにみっちりとした、かつサイダーのようにはじけるシンセの類の音色が空虚な気持ちをねぎらいます。

思想の容れ物としてのサウンドの質感の透明さ、豊かさ・輝かしさに敬服、耳福です。ぜひヘッドホンで目を閉じて聴いてみて欲しい曲。

青沼詩郎

参考Wikipedia>Delight Slight Light KISS

参考歌詞サイト 歌ネット>とこしえにGood Night(夜明けの色)

Yumi Matsutoya Official Site 松任谷由実 オフィシャルサイトヘのリンク

『とこしえにGood Night(夜明けの色)』を収録した松任谷由実のアルバム『Delight Slight Light KISS』(1988)