月がとっても青いから 菅原都々子 曲の名義、発表の概要
作詞:清水みのる、作曲:陸奥明。菅原都々子(すがわら つづこ)のシングル(1955)。同年、同名の日活映画主題歌。
菅原都々子 月がとっても青いから(『菅原都々子 ゴールデン★ベスト』収録)を聴く
“サ、帰ろう”の歌詞のところの長6度跳躍のスムースで美しいこと。にこやかな顔面と歯の隙間から天真爛漫に響く様子を想像させる独特の声。ちぢれたインスタントラーメンみたいに細かく強いウェーブを思わせるビブラート(喩えがヘンですみません)。私の記憶の引き出しですと島倉千代子さんなども思い出させますがそれはそれでまた個性が違います。
検索したWikipediaによると菅原都々子さんは東洋音楽学校(現在の東京音楽大学)ご出身とのことで、黒柳徹子さんの出身校と同じですね(筆者の私も東京音楽大学出身なので大先輩です)。
『月がとっても青いから』の作曲者は陸奥明(むつあきら)さん。都々子さんの実の父上で“浅草オペラ”で活躍した歌手だったといいます(関東大震災でその灯りも消えてしまったそう)。さらに都々子さんの養父は古賀政夫さんだといいます。血縁者ぐるみの音楽人生ですね。
『月がとっても青いから』の話に戻します。音がとても綺麗です。定位もはっきりしており、各パートの聴き分けが快適。『菅原都々子 ゴールデン★ベスト』配信版に収録されている音源を聴きましたが、この音源、もしかして1955年だという曲の発売当時の音源とは違う再録のものなのでしょうか?
ベースが機嫌よく足回りを動かし、左からウッドブロック系のパーカッションが調子(音楽の調性の意味でなく、機嫌や体調のよしあしを表す意味で)をとります。ドラムセットやスネア、バスドラやシンバルなどのいわゆるドラムキットがない。ベースとウッドブロック系がリズムセクションなのです。これでいいんだ。これがいいんだ。おかげか、ストリングスやブラスの音が晴れやかに見通せます。
右のほうからヴァイオリンとマンドリンがユニゾンしてトップノートでリードします。並木路子さんが歌った『リンゴの唄』などを思い出させるリズム形のモチーフで喜び勇んでいるみたい。歌が入ってくると、歌メロディともユニゾンします。
柔和な内声を支えるのはクラリネットなどの木管なのかな。ミューテッドトランペットやホルンかな? と思わせる音色も行き交います。多様な人が交雑する都市の様相を思わせます。これが当時の洒落た流行音楽の「顔」だったのかなと思わせます。
音の(耳の)衛生にすこぶるよいオケを従えて、やはり繰り返しになりますが菅原都々子さんの歌唱が晴れた月夜のしたで身軽にステップを踏むみたいに機嫌良く明るい響きです。きょうこの瞬間にヘッドフォンで聴いても非常にここちよさを覚えます。
ツキ(運命)の表情
月もあんなに うるむから
遠廻りして 帰ろう
もう今日かぎり 逢えぬとも
想い出は 捨てずに
君と誓った 並木路
二人っきりで サ、帰ろう
『月がとっても青いから』より、作詞:清水みのる
月がうるんでいるのか、主人公の瞳が涙でうるんでいるのか。幸せや充足感を思わせる1・2番とは趣や光量を変えて、3番はせつない感じがします。
明日からは会えなくなるといっているわけでもなく、「今日かぎり逢えなくなったとしても」という仮定(if)を歌っているだけかもしれませんが、そんな決別を予告しているみたいにうるんだ月がせつない。
そもそも一番で歌われる印象的な“月がとっても青いから”というフレーズ。私は月をみて「青い(It’s blue)」と思ったことがありません。月って「青い」かな?
確かに夜空を見上げると個別の星々のなかに青いものがあります。青い色の星は、意外に赤くみえる星より温度が高いと聞いたことがあります。確かに、仮定のガスコンロやバーナーの火も、黄色などより青い炎のほうが温度が高いとか(あいまい)?
月の青はまたそうした炎の実際の温度の青さとも違います。晴れた夜空にポカンと浮かんでじわーっと沈静な存在感をはなつ月がなんとなく「青い」という観念とかさなって思えるのは……それは落ち着き払った、静かなイメージが「青」と結びつくということなのでしょうか。対極的に、情熱的だとか意思が猛々しくて行動的で強いといった印象は「赤」と結びつく気がします。
2番の歌詞は“月の雫に 濡れながら”ではじまります。月がさまざまな表情をみせますね。雨の夜のことなのかもしれないし、晴れた月夜にしんしんと降り注ぐような、やわらかい霧みたいな月の光に満ちた情景を“月の雫に 濡れながら”と歌っているのでしょうか。
この曲のアイデンティティは大衆音楽であり流行音楽であると思いますが、情緒がある歌詞は文学や芸術としても大きな価値を覚えます。メロディも動きとなめらかさを共に備えていて美しいですね。ヒットの規模も当時としてかなりのものだったようです。「月」をモチーフにした曲が「ツキ(運、運命)」を変えたのですね。「月」を扱う大衆音楽が古今東西絶えない理由を垣間みます。
青沼詩郎
参考Wikipedia>月がとっても青いから、菅原都々子
『月がとっても青いから』を収録した『菅原都々子 ゴールデン★ベスト』(2011年。2004年発売の『菅原都々子 定番ベスト』の再発盤か)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『月がとっても青いから(菅原都々子の曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)