月の爆撃機 THE BLUE HEARTS 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:甲本ヒロト。THE BLUE HEARTSのアルバム『STICK OUT』(1993)に収録。
THE BLUE HEARTS 月の爆撃機(アルバム『STICK OUT』CD)を聴く
ロマンと自尊心を感じます。表裏一体の孤独を、「月」のモチーフが表現します。月は夜を示します。孤独で寂しい。視界もわるく、道標などありません。いえ、ただひとつあるとすれば、気分屋の空模様に左右され周期をもつ“薄い月明り”くらいのものでしょう。
開放弦をルートにしたギターのリフが漂います。この無敵で虚空の響きがもう夜のロマンを私に思わせます。ギターのオープニングのリフに続いて、激烈なドラムスのタム連打。シックスティーンの分割でタムを打ち、2・4拍目でスネアを打ちます。
この激烈ストロークにはハイポジションのベースのオルタネイトストロークも融合しているでしょうか? 聴いただけだとなんともいえませんが、そんなような浮遊した響きを感じます。
スネアの音のなんと硬質なことか。真っ白な月面に一個一個、最凶の爆弾で黒点を落としていくみたいに硬質です。
左に細かい分割のエレキギターが振られ、右に2・4拍目を強調するなどのプレイが印象的な2本目のギターが振られ、リズムを補完しあいます。キュイーンとピックグリスを要所で適確に描きます。爆撃機の降下みたいで痺れる音景です。ソロ(間奏)になると3本目のギターがあらわれます。爆撃機が編隊になりました。
オルガンの音色がきらめきを添えます。弾け飛んで散ったガラス片をおもわせるような、きらびやかな響きでオリジナルメンバーの演奏の隙間、背景に輝きを加えるオルガンが素敵です。ブルーハーツのアディショナルメンバーといえばこの人、白井 幹夫さんの演奏。
甲本さんのボーカルの真っ直ぐで密度の濃い質感はますます磨きがかかります。ゴロゴロゴロゴロ……と転がりまくるバンドの音と互角に殴り合える唯一無二の声です。特に低い音域に密度が感じられる味わいです。
オープニングのパターンと相似形のリフを再現して、サブドミナントの和音を闇夜に浮かべてエンディング。
“手掛かりになるのは薄い月明り”(作詞:甲本ヒロト)
自分だけがかろうじてわかるくらいの幽かな光かもしれません。それでも光の匂いを嗅ぎ取って行くのみなのです。
“錆びついたコクピットの中にいる 白い月の真ん中の黒い影”(作詞:河本ヒロト)
時の流れに取り残されて錆びつこうともこれが自分の操縦席なのです。まわりが全て真っ白に染まろうと、影の自分は黒なのです。平易な語彙の組み合わせで幻想的な情景を描きます。私の想像をかき立て、自分の月明りや道はなんなのかを思わせるのです。
バンドとタイマン張ったパワフルな声をマイクの中に注ぎ込んでいるのに、心がそっと嘆いただけの言葉のようにも聴こえるから惹かれます。
青沼詩郎
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『月の爆撃機』を収録したTHE BLUE HEARTSのアルバム『STICK OUT』(1993)