窓から青空
アウトローな生き方をしてきた主人公が、暗く狭く臭い現実から、狭い窓を通して未来の象徴:青空を見上げて嘆いているような曲想がブルージーです。後半で転調し未来を望む心象を音楽の意匠で表現するかのよう。
「どうしてこれから生きたらいいのかよ お偉い方よ教えてよ」と、青空(未来)に向かうために具体的にどうすべきかの挙動、その解像度にまではイメージが及んでいなさそうなところに彷徨うあてもなさ:悲哀がこもっています。
低音を保続しながら上声が変化して戻るパターンは雄大な印象です。未来への道筋、その解像度には及んでいなくても、それは同時に絶望へのイマジネーションの解像度も低くて住んでいる、タフな肉体と精神、鈍感力じみたものに秀でた主人公の特性のあらわれなのかもしれません。
作詞が山上路夫さん、あの『翼をください』(赤い鳥)の作家でもあります。『つめたい部屋のブルース』の主人公とは表面の質感に幅があるようでいて、しかしながら根っこでつながっているようなマインドを感じもします。
必要十分なパート数のバンドのサウンドで的確に豊かな音景を表現しているところも聴いていて快く潔白です。
つめたい部屋のブルース かまやつひろし 曲の名義、発表の概要
作詞:山上路夫、作曲:かまやつひろし。かまやつひろしのシングル『どうにかなるさ/つめたい部屋のブルース』(1970)、アルバム『どうにかなるさ アルバム No.2』(1971)に収録。
かまやつひろし つめたい部屋のブルースを聴く
サブスクや再発円盤でも聴きたい、かまやつひろし
かまやつさんのソロ初期作の円盤は新品がきわめて手に入りにくく、正規のダウンロード音源販売なども存在しないタイトルがしばしばみられます(この記事の執筆時:2025年12月)。そうした貴重な音源の再発を強く望みます。
かまやつさんは2017年3月没でいらっしゃるので没後10年の2027年にまとめてとか、あるいはアルバム発売⚪︎⚪︎周年などでなんとかならないものでしょうか。大滝詠一さんの「ロンバケ」みたく、私にとって長く残して扱っていきたい作品群でありアーティストです。
手持ちのスパイダースCDボートラで聴く
YouTubeで「つめたい部屋のブルース かまやつひろし」を検索する
今回の記事では私の手元にあるCD『ザ・スパイダース・コンプリート・シングルズ』のボーナストラックとして収録されているものをソースに聴いてみます。
右にドラムスが寄っています。キックが16分割の音価になっていて達者です。左にエレキが寄っています。「孤独でつらいだけだった」と歌ったあと、ベースとユニゾンのフィルインを決めます。このフィルインが、「孤独でつらいだけ」の具現化なのか、あるいはその先に何かが変わるのではないか、今この瞬間に何か起きてくれるのではないかという希望、あるいはもっとどん底にいくかもしれない革命を思わせます。「孤独でつらいだけだった」のところで歌唱の熱量も天井にタッチしますので、この流れが胸熱なのです。
オルガンのサウンドが曇り空から漏れ出る陽光みたいで感動的なのです。ギター、ベース、ドラムといった減衰系のベーシックリズムの隙間を埋め、支え、豊かな質量を確保する重要な役割です。
かまやつさんのオーバーダビングなのでしょう、高い声でオブリガードのボーカルが入ります。定位感あるいは前後感が絶妙で、ここではないどこかから精神の声が交雑入電するみたいな質感があります。
オープニングのハーモニカが絶妙。童謡『この道』(作詞:北原白秋、作曲:山田耕筰)のような哀愁ある旋律を奏で、孤独なフィールです。
エンディングの口笛が頼りないが、そこがまたこの曲の歌の主人公の現実を補強するようでリアルです。
青沼詩郎
Monsieur Kamayatsu Forever | ムッシュかまやつWEB記念館へのリンク
『つめたい部屋のブルース』を収録したかまやつひろしのアルバム『どうにかなるさ アルバム No.2』(1971)