天国のおじさんが口ずさんだのは
酒に失敗はつきものですが、一生を瓶に振る……じゃなくて棒に振る失敗だけは避けたいものです。 酒を描写に含めた歌が世に多い事実もまた、酒の魔性を証明するかのようです。ふきのとうの美しいアルバム『風来坊』にも、酒に依存したらしきおじさんが描かれる、アルバム曲らしい妙曲『Uncleあるちゅうの唄』が収録されています。 ラテンなノリのベーシックは極楽な雰囲気で、シンプルに楽しいですが最後まで聴いたうえではおじさんの末路たる天国を暗示しているかのような皮肉かとも思えます。 スネアリム、クラヴェス、カスタネットなどリズミカルな種々の楽器の音色たち。ピアノやベースのリズムの緩急、よっばらってつっかえたり急に突進したりするみたいなパーカッシヴで乾いた音色のエレキギター、その装飾音などの細かいプレイ。ミューテッドトランペットが「ホンワカパッパ」よろしく新喜劇かのよう。口琴のようなビヨビヨした音色で「お・じ・さん」という単語は天国へ手向けるソラミミでしょうか。和音はまさかのⅠとⅤだけで完遂するシンプルさ。 この曲自体が、天国のおじさんが口ずさんでいた鼻歌だったのでは?というメタフィクション?っぽさを思わせる創意が光ります。
Uncleあるちゅうの唄 ふきのとう 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:山木康世。ふきのとうのアルバム『風来坊』(1977)に収録。
ふきのとう Uncleあるちゅうの唄(アルバム『風来坊』収録)を聴く
実在の“おじさん”かどうかわかりませんが、実在しそうですね。おじさんへの愛着が曲として結実したのか、あるいはやれやれアノ人は仕方のない人だったよねという諦観も含んでの故人への敬意なのか。
ラテン、あるいはベースのうろうろ動いては張り付いての同音連打はレゲエっぽい。
ピアノがピチャンピチャンと神出鬼没のおじさんのキャラクターを演出するかのような、入りと出のメリハリの効いたリズミカルなオブリガード。エレクトリックピアノの音色もいて、響きのマイルドさ、豊かさもあります。ティンバレス、ウッドブロックにシェーカーと音色のキャラも豊か。
間奏はミューテッドトランペットかと思いましたが、改めて聴くとますますなんの楽器なのかよくわかりません。エレキギターなのか、あるいは人の声なのか?
口琴がビヨビヨ響いたみたいな「お・じ・さん」を唱える音色も果たして口琴なのかよくわかりません。エレキギター+トークボックスとかなのか。なんとなくオーストラリアの民族楽器、アボリジニのディジュリドゥの音色なんかも思い出させるワールドワイドな交雑性すらあり、おじさんのふらふらほっつき歩きぶりを音楽で物語り、花を……あるいは酒のビンを手向けるような、エンターテイメントによる誠意を覚えます。
今日は〜いい天気だよぉ。シゴトに〜行かないの〜
疑問系の?が末尾につくのか、あるいは、仕事に行かない人自身のご機嫌な口が漏らす鼻歌みたいだな、なんて思います。おじさん、まぁ天国ではほどほどに楽しんでくれよ。
青沼詩郎
参考Wikipedia>風来坊 (アルバム)、ふきのとう (フォークグループ)
『Uncleあるちゅうの唄』を収録したふきのとうのアルバム『風来坊』(1977)