ちびまる子ちゃんのオープニング セルフ・オマージュっぽくもある大滝さん

一瞬で音楽の大河の文脈がそびえるサウンドが見ものです。渡辺満里奈さんのまっすぐでのびのびとした歌声が聴き手を選ばず、家庭のテレビのある空間のフィットしたことと思われる”ちびまる”の主題歌です。

大滝さんの傑作『君は天然色』のセルフ・オマージュっぽくもありますし(同時にフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンド的でもあり)、マライア・キャリーの『恋人たちのクリスマス(All I Want for Christmas Is You)』(1994)的なフィーリングとの近似性が明白(私の主観ですが)で、『恋人たちのクリスマス(All I Want for Christmas Is You)』の翌年の発表にあたるのがこの『うれしい予感』ですから時代的にも自然な近さがありますので、制作において参考にしたのか、果たしてどうでしょうか。

『うれしい予感』を収録した渡辺満里奈さんのアルバム『Ring-a-Bell』はコンパクトなサイズ感でありながら、雑多で、景色が豊かな楽しいアルバムで痛快です。

うれしい予感 渡辺満里奈 曲の名義、発表の概要

作詞:さくらももこ、作曲:大瀧詠一。渡辺満里奈、植木等のスプリット・シングル『うれしい予感/針切じいさんのロケン・ロール』(1995)に収録。テレビアニメ『ちびまる子ちゃん』オープニングテーマ(1995-1996)。渡辺満里奈のアルバム(EP)『Ring-a-Bell』(1996)にアルバム・バージョンを収録。大滝詠一によるセルフ・カバーを『DEBUT AGAIN』(2016)に収録。

渡辺満里奈 うれしい予感(『GOLDEN☆BEST 渡辺満里奈』収録)を聴く

渡辺満里奈さんのくせのないまっすぐで純真な発声。相当クセをとるために訓練でもするとこうなれるのか、あるいは下手に自己流の訓練を重ねたりしなければもともと人間のボーカルはこう清らかであれるものか? いずれにせよ驚嘆の純白さで、楽曲の透明でシルキーなサウンドに完璧にフィットしています。

オケのサウンドの精緻よ。

チカチカと右のほうの定位で明滅するピアノのトリプレットのサウンドが軽い。ハープシコードの音色が漂ってきて時代が交叉するみたい。左右にひろがって感じるアコギのストラミングに落ち着きがあります。ドラムのタムタムの定位が開き、フィルインで動きがでます。残響感がふくよかなスネアのサウンド。ベースはたまにベキンとプルの激し目の音色をアクセントに放り込んできて、絹のような全体のオケサウンドに華を添えます。

左右にひらくスレイベルがクリスマス的。しかし漂ってくるクリーンなエレキギターのカウンターはどこかサーフミュージック的でもあります。これはどんな季節の歌としてとらえたら良いのでしょう。うれしい予感は季節を選びません。渡辺満里奈さんの歌声が聴く人を選ばないように……主題との共鳴を覚えます。

バックグラウンドボーカルがつねに「ワー」っと保続したり、ダン、ドゥビ……みたいく響きやリズム、緩急・変化をつけます。大滝さんの声が入っていますね。

演奏、歌、アレンジ諸要素含め総じて極めて美しいサウンドです。渡辺満里奈さんの代表曲は何かと私が訊かれたらこの曲の名前を答えたい。

さくらももこさんの作詞としては、かなりクセや遊びを平らにならした印象だなと思うのは『走れ正直者』などの自由奔放な作品が違う方向に振れ幅をもたらしているせいでしょうか。大滝さんサウンドへのリスペクトが、さくらさんの作詞においても、響きを重視する方向に(無意識にか)作用した結果かもしれないな、などと勝手に推理しています。

大滝さんのセルフカバー『うれしい予感』(『DEBUT AGAIN』収録)

共通のオケトラックを使用した、ボーカル:大滝詠一バージョンといったところでしょうか。まっすぐで冷たさとあたたかさの両方を感じる歌声の質量感、その密度、艶、色気が深いです。当然キーもそのまま、渡辺満里奈さんとオクターブ違いのボーカルです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>うれしい予感/針切じいさんのロケン・ロール

参考歌詞サイト 歌ネット>うれしい予感

渡辺満里奈オフィシャルサイトへのリンク

『うれしい予感』を収録した『GOLDEN☆BEST 渡辺満里奈』(2010)

『うれしい予感』を収録した渡辺満里奈のアルバム(EP)『Ring-a-Bell』(1996)

大滝詠一によるセルフカバーの『うれしい予感』を収録した『DEBUT AGAIN』(2016)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】ちびまる子ちゃんのオープニング『うれしい予感(渡辺満里奈の曲)』ギター弾き語り』)