美しき愛の掟 ザ・タイガース 曲の名義、発表の概要
作詞 :なかにし礼、作曲:村井邦彦。ザ・タイガースのシングル(1969)、アルバム『THE TIGERS AGAIN』(1970)に収録。
ザ・タイガース 美しき愛の掟を聴く
じっとりとしたナチュラルマイナーの曲調と、ジュリー(愛称で失礼)の歌のねっとりとした質感とグロス感が相まっています。
ベースのなんと手数の多いこと。エンディングに向けてドラムの手数も高まっていきます。ドツドツと衝突し減衰するタイトなサウンドのドラムと、ズゥンボウンと深い質感のベースが地盤を築きます。こういうGSサウンドにさもありなんというベースのサウンドってどんな楽器や機材を仕様して練り出されているのか興味があります。
左のほうに、低い音域でガバガバとリズムストロークするエレキギター。こびりついたかさぶたをふりはらうような独特のガサガサ感ある、トリムの効いたサウンドです。そのリズムのエレキに対して、鋭くカウンターしたりリードを添えるエレキギターが役割を分かちます。そちらはダブルトラックでチョークアップする(ベンド)する音程が印象的で鮮烈です。音を合わせようとしているのか、ちぐはぐにほぐれようとしているのか。
オルガンのサウンドがまた強烈で、途中のボリュームを徐々に上げて迫ってくるところの演出など圧巻ですし、常に何か不穏な試練が降りかかるような独特の緊張感を演出する魔性の糸です。
バックグラウンドボーカルのサウンドが神がかっています。どうやったらこんな、輪郭が霧になじんだみたいなサウンドが作れるのか。「フワッ。フワァッ。」なんと言っているのかわかりかねますがとにかく何か警鐘を鳴らしているみたいです。
エンディング付近でタンバリンも入ってきて緊張感や熱量感もマックスに。
ギターギターベースドラムオルガン、バックグラウンドボーカルにタンバリン。バンドメンバーでほぼ完遂できる編成でこのサウンド構築の高みに至っているのにじんわり感動を覚えます。1969年3月のシングル曲で、まさにグループ・サウンズブームの終末期にあたる楽曲です。“永遠に君だけを”とひたすら繰り返し、すべてが次のフェイズに移ろって行くのです。
GSブーム終末期の誓い
“青い空に舞う 白い君の手と バラの髪かざり ぼくを悩ませる ぼくは君のために 人のそしり受けて 牢屋で死んでも かまいはしない 赤い太陽に 光る砂よりも 唄うギターより ぼくは燃えている”(『美しき愛の掟』より、作詞:なかにし礼)
空の青、肌の白、髪に飾るバラ、太陽の赤。鮮烈な色彩をたくさん並べ立てて、強いコントラストを演出します。砂浜の白に、光の届かない暗い牢屋。色彩のみならず光の量についても落差を演出します。
燃えると物質の状態は変わってしまう。もう過去のような姿ではいられないわけです。ぼくは燃えている。献身であり渾身の姿勢で君への愛を、ギターよりもラウドに叫んでみせるのです。GSの終末期にこのメッセージは王道にして胸熱ではありませんか。グっと来ます。最後の最後までGSはGSらしく、タイガースはタイガースらしくあろうとした。そんな不器用で正直な態度を想像します。
この作品が本当にタイガースの最後のシングル、というわけでは全然ないのですが、ちょうどこの『美しき愛の掟』のリリース頃がGSブームの収束期と重なるようなので、当時を知らない身としてですが勝手ながら作品のポジショニングをいろいろ想像してしまいますね。それもまた楽しい。
青沼詩郎
『美しき愛の掟』を収録したザ・タイガースのアルバム『THE TIGERS AGAIN』(1970)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『美しき愛の掟(ザ・タイガースの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)