まえがき
チェンバロ(ハープシコード)の音色が特徴的で「バロック・ポップ」「バッハ・ロック」などと評された『いとしのルネ』などのレパートリーをもつバンド、レフト・バンク。そのサウンドや音楽の意匠のひとヒネりに私は惹かれるものがあります。
低い音域が特徴的なフルートの音色はアルト・フルートでしょうか。この音色にピンと来るとすれば、私の記憶と照らし合わせるにずばりママス&パパスの『夢のカリフォルニア(California Dreamin’)』です。実際に『いとしのルネ』の発想当時、ママパパのこの曲がヒットしていたそうで、アルト(?)のフルートを取り入れるアイディアを「夢カリ」からいただいているのは事実だそう。
アナログチックな音色のストリングスが哀愁めいており、リードボーカルの歌唱もどこか儚げ。繊細な、高めの音域の声色・声質が耽美です。ボーカルのレイヤーにも趣向を感じます。
実在の「ルネ」への恋心、不安定ながらも湧き出ずる想いが表れているのかもしれません。恋はバロック時代とも空がつながる普遍なのでしょう。
いとしのルネ Walk Away Renée The Left Banke 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Mike Brown(作詞者か)、Tony Sansone、Bob Calilli(作曲者か)。The Left Bankeのシングル(1966)、アルバム『Walk Away Renée / Pretty Ballerina』(1967)に収録。
The Left Banke いとしのルネ Walk Away Renée(アルバム『Walk Away Renée / Pretty Ballerina』収録)を聴く
これギターレスですかね。和音はチェンバロとストリングスが成します。ちょっと2拍目を強調しつつ、ほぐれるようにストロークするチェンバロ。右寄りの定位です。左にはストリングスが寄っていて、個別の楽器個体の線が分かるようなサウンドがパーソナルな室内空間、心の領域みたいなものを思わせます。
そんな空間で、間奏にアルトなのか低いフルートがあらわれます。リバーブが深く、幻想的です。主人公の言葉にならない感情が託された意匠でしょうか。
ドラムのフィルインの語彙がちょっとグループ・サウンズっぽくもあります。演奏はとても安定していますね。ベースの音も丸みがあってマイルドです。繊細なボーカルの表情が映えます。
Wikipediaページの「セッションの詳細」という項目にはギターもクレジットされています。え、どこにいた? 私ならスチャっと2拍目表と3拍目裏あたりにカッティングプレイを入れたくなりますがそういう感じでもありません。
青沼詩郎
参考歌詞サイト J-Lyric>Walk Away Renée
『Walk Away Renée』を収録したThe Left Bankeのアルバム『Walk Away Renée / Pretty Ballerina』(1967)