オフコースのサウンドの透明さよ。

私の願い オフコース 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲: 小田和正、編曲:オフコース。オフコースのアルバム『We are』(1980)に収録。

オフコース 私の願いを聴く

イントロもなく強起で歌い出します。アルバム収録の前曲『Yes-No』の前向きなビートがフェードアウトで消えていき、この純白のような楽曲『私の願い』が始まるのです。

中核になるのは鍵盤の弾き語り。鍵盤のトーンのキャラクターが重要です。ただのピアノではありません。でもただのエレクトリックピアノだけでもない。これ、ひとつの鍵盤を弾き語るだけで、生ピアノのサンプルトーンとエレクトリックピアノのトーンが同時に鳴るようにしたのではないでしょうか。ちょうど、そんな音色(生ピアノ+エレクトリックピアノ)に感じるのです。

小田さんの声は本当に希少遺産のよう。彼の声が鳴っているだけで、そこに独立したおとぎ話の世界が展開されているみたいに感じるのです。いまでこそ、短くカットした髪型がトレードマークのシュっとしたビジュアルを彼の声を聴けばセットで思い出してしまいますが、あらためて声だけを聴くとつくづく中性的な声だとも思うし、同時に「ただの中性的な声」では決してないのも思います。

「想い」の世界に雑念の入り込む余地のない歌声なのです。歌詞の言葉、語彙が透明なので、その言葉を歌う声もこうでなくてはならないのです。オフコースの曲は親しみ、真似したくなるのですが、決してオフコースの歌であるというアイデンティティを揺るがすことのできない鉄のような堅さがそこにあるのです。私が歌おうものならたちまちまがいもの、良くても真似にしかならない。真似と認知されればまだましというほどのものです。

両サイドに音像を広げるバックグラウンドボーカルが澄み渡ります。小田さんの重ね録りの声が中心でしょうか。

要所を、サスペンデッドシンバルで印象づけます。ビートよりも響きを重視するオーケストラの表現に見出せそうなシンバルワークです。合わせシンバルがピシャーンというような局面も1回程度あるでしょうか。

ベース音を出すのはおおむね鍵盤の弾き語り(実際の録音が歌と同時録音かどうかわかりませんが)に含まれる音色、あるいはストリングスの音色です。プログラミングあるいはサンプルした類のストリングスの音色です。生楽器の音でない故の澄み渡った印象です(もちろん他曲において、生楽器のストリングスだからこその「澄み渡った感触」もあります)。

シンセサイザーのポルタメントするやわらかくカドのまるいトーンがボーカルメロディをトレースします。このパートも楽曲の敬虔な印象を支える要素でしょう。シンセサイザーの「純音」とまでいえるかわかりませんが、倍音構成が生楽器とは決定的に違うフォルムの音色は「まっしぐら」な印象を演出する利器のひとつかもしれません。

鍵盤、シンセ、ストリングス、サイドに開くバックグラウンドボーカル、そしてメインボーカル。ちょっとだけ色付けにシンバル類。主要なパートはほぼ私風情に書き出してしまえるくらいにシンプルですが、荘厳な雰囲気を構築する凄みがあります。澄み渡らせる凄み。雑味を必要としない(排除できる)凄みです。必要なものだけを丹念に注ぎ込むことによって構築するもの、その純粋な厚みが「荘厳さ」となって鑑賞者に還元されるという教訓をオフコースのサウンドはもたらします。

会うたび君は すてきになって そのたび僕は とり残されて 君のために今 なにができるだろう 大切なあなたのために

『私の願い』より、作詞:小田和正

相手が自分には見合わないような魅力をそなえて、自分との距離が膨らんでいくやるせない気持ちに共感できる人は少なくないのではないでしょうか。

恋愛のイミでのシチュエーションに限りません。親類の、さんざん可愛がった甥っ子や姪っ子。あるいは親友のお子さんとか、そういうたまに会う親愛の対象に覚えうる感情だと思います。

自分の子だと、同居している場合は毎日のように顔を合わせるせいで、ある点とある点を抽出した際の変化を認知しにくいかもしれません。自分の子であるが離婚した相手が引き取ったのでたまにしか会えない、という事情であればこの読み筋に重なるシチュエーションかもしれません。養育費を送るだけでなく、何が私にできるだろう……なんだかせっかくのオフコースの澄み渡るサウンドに雑味を挿すようなゲンキンな妄想をしてしまったかもしれませんが、そういう幅をもたらすのはほかでもないこの楽曲のサウンドが究極に「透明」だからであり、それはオフコースのサウンドの多くに通じる作風のようなものであり、彼らの音楽の巨大な魅力だということにうなずいてくれる人が一人やふたりこの世にいてくれと私は願うばかりです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>We are

参考歌詞サイト 歌ネット>私の願い

オフコース ユニバーサルミュージックジャパンサイトへのリンク

『私の願い』を収録したオフコースのアルバム『We are』(1980)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『私の願い(オフコースの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)