君は思うものになれる
日本ではCMでこの曲にふれた人も多そうです。コカ・コーラ、ソニー、アサヒ、ファミリーマート、トヨタ、大和証券などこの曲をCMに採用した企業の多いこと。
カノン進行風のコード進行に乗って、悠然としたボーカルメロディが日々の鬱憤の向こう側の真理を諭してくれるかのようです。
ベースがきれいに順次下行していくレパートリーはOasisの持ち曲の中では少数かもしれません。『Don’t Look Back in Anger』のコーラスの進行もちょっと似た雰囲気があります。
アコースティックギターやピアノ、ストリングスといった生楽器の芳醇な響きにドラムやタンバリン、エレキギターなどのオープンで華やかな響きが組み合わさり、リアム・ギャラガーの声質そのものがそもそもが増幅と歪みを帯びて倍音が華やかになったエレキギターのサウンドみたいにも聴こえます。
長いエンディングでギターのリフレインが現れたり、ヴァイオリンの長い音価のボウイングが現れたりしつつ、リズムトラックがいつしか乖離します。人生の道が深まるほどに孤独に厳しくなっていくが慈しみも同時に深まるかのようです。
音楽的な構造部分がエンディングを迎えて終止すると、ガヤが入ります。人々の歓声や野次、拍手などでその場の空気、環境音を添えており、音楽作品の轟く空間と、私たちが普段現実に存在している空気とのクロス・接合を表現しているかのようです。これもひとつのOasis作品の特長かもしれないと思いました。
印象的なストリングス群はLondon Session Orchestra、ストリングスアレンジはNick IngmanとNoel Gallagherの共同名義です。
君は(僕は)自分の思うようになれる、というシンプルにして的確で器の大きなメッセージが壮大で豊かなサウンドともにリスナーに流れ込む傑作。
Whatever Oasis 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Noel Gallagher。Oasisのシングル(1994.12.18)。ベストアルバム『Time Flies… 1994-2009』(2010)に収録。
Oasis Whatever(ベストアルバム『Time Flies… 1994-2009』収録)を聴く
音の豊かさがすごいです。乗り込んでいる人の数だけの仕事が音源のクオリティにすべて反映されている感じがします。
イントロからアコギのストラミングのサウンドが非常にリッチです。ドンと深く鳴る残響感。ドラムのフィルインは楽曲の後半、ブリッジからコーラスに復帰して落ちコーラスからバンドインするところでも再現がある感じでコレキタ感。
曲のサイズが6分超えですが、曲の構造、部品がそれほど多かったり複雑だったりするわけではないのです。ブリッジのところ(歌詞、Here in my mind……のところ)が長いサイズの曲を自然に聴かせる「転」の構造になっています。Gメージャーの平行調のEm調に行きそうな、これでもかというBの和音で副次の響きを露呈し、石が転がってどこへ行く?と先行きの展開、カメラの方向性を乱しリスナーの注意をひきます。ギターだかベースだか、歪みもいっそう深く感じます。そしてAnd you know it’s know fun……と和声を転々とし場をかき乱し、そしてコーラスの盤石のカノン進行風の展開に戻ってきてリアムのリードボーカルが入ってきます。ああ、俺は俺でよかったんだと思わせる緩急の緩、緊張が弛緩する部分です。
エンディングでWhatever you do……とリードボーカルが歌う。このモチーフはこれまでになかったパーツです。ここにきて、この曲の肯定的な姿勢・本題の背中をさらにもうひと押しするフレーズが友好的。この清涼な親密さがこの楽曲を私が愛する理由のひとつです。
楽曲中、クラップが重なり人の輪を演出します。エンディングのガヤで、その人の輪自体がフレーミングの中心になります。一体何人いるのでしょう。ストリングスを担当したメンバーたちも一緒にこのガヤを録ったのかな。傑作できたね、おれたちゃ最高だよ、と。私もそこにいる気がしてきます。
青沼詩郎
参考Wikipedia>Whatever (Oasis song)、ホワットエヴァー、タイム・フライズ…1994-2009
Oasis – The official websiteへのリンク
Oasisのシングル『Whatever』(1994)
『Whatever』を収録したOasisのベストアルバム『Time Flies 1994-2009』(2010)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】君は思うものになれる『Whatever(Oasisの曲)』ピアノ弾き語り』)