ウイスキー・ドリームを聴く

作詞・作曲:みなみらんぼう。編曲:若草恵みなみらんぼうのアルバム『ウィスキー・ドリーム』(1978)に収録。

ピアノのイントロダクションのメロメロになってしまいそうな雰囲気づくり。コンパクトでシンプルな楽曲の構造を極上のお盆に乗せる演出です。

ピアノが流麗です。酒場のピアノをイメージしたような軽めのサウンド。キャラクターは縦型ピアノに近いものを感じます。

編曲が好い。基本となるパートはシンプルですが欲しいところに欲しい動きをしてくれる。演奏に変化があります。右にピアノ、アコースティックギター。左に柔和なカドの丸いジャズトーンなエレキギター。ドラムスは大事な帯域が中央にある感じですがタムやシンバルで左右に広げているでしょうか。音がきれいです。アコースティックのベースが暖かい音色で快調にビートを運びます。

管楽器がまた色っぽい。テナーサックスでしょうか、前半のほう、低めの音域で、ティッシュでカウンターテーブルを撫でるみたいな発音が艶めきます。エンディング付近はかなり高い音域をリード。同一の管楽器ではなく持ち替えているのかも? エンディング付近はクラリネットぽい音色にも感じます。

個々の演奏の工夫や変化が効いていて隅々まで小気味良い。このバンドにみなみらんぼうさんの素朴であたたかい声が乗ります。快調なテンポでボーカルメロディの動きは案外細かく跳躍の距離もあります。素朴で簡単そうにさらっと歌っていらっしゃるところ、感嘆するばかりです。

“せめて この世の女たちよ 男を優しく つつんでおくれ 女なしでは 男は駄目さ 最後はあんたの 切り札が怖い オー ウイスキー ドリーム”

“いつも この世の女たちは 泣けば明日が 晴れると思う 男が悪い 女も悪い だけど最後の切り札はあんたさ オー ウイスキー ドリーム”

(『ウイスキー・ドリーム』より、作詞:みなみらんぼう)

「切り札」の単語が私に引っかかります。1コーラス目で出てくる「切り札」は、女性が男性に対して取り出す「切り札」のことを云っているように感じます。それは涙のことなのか。女性の涙をウイスキーの滴に見立てているような趣もあります。主人公を酔わせる。救いもするし、貶めもする。怖いです。

2コーラス目の「切り札」は、酒としてのウイスキーのことをそのまま云っているような趣向を感じます。男も悪いし女も悪い、そしてどうにもならないとき、問題の扉を開けっ放してふらふらと辿り着いた先の心の書斎の黒いソファ、その前のローテーブルの上に置かれた救い(貶め)こそがウイスキー(酒)なのではないかと。これぞ切り札。というか何も解決しない逃げ、かもしれません。口を酸っぱくして言えば……それでも主人公はそれを飲んでしまう。主人公の身近な女性の涙かもしれませんし、それは主人公自身の涙でもあるのかもしれません。

それは琥珀色で美しく、喉を灼けつかせるような圧倒的な支配力(薬効あるいは害毒)でこの世から3センチくらい主人公を浮遊させてくれる「夢」なのではないでしょうか。

青沼詩郎

参考Wikipedia>みなみらんぼう

参考歌詞サイト 歌ネット>ウイスキー・ドリーム

キングレコードサイト>みなみらんぼう キングレコード時代のシングル・アルバム 全世界配信開始

2023年12月13日のみなみらんぼうさんの79歳の誕生日にキングレコードの音源を配信。各アルバムの概要紹介とともに。

キングレコードサイト>みなみらんぼう

みなみらんぼうのアルバム『ウィスキー・ドリーム』(1978)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ウィスキー・ドリーム(みなみらんぼうの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)