YAH YAH YAH CHAGE and ASKA 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:飛鳥涼。CHAGE and ASKAのシングル、アルバム『RED HILL』(1993)に収録。
CHAGE and ASKA YAH YAH YAH(アルバム『RED HILL』収録CD)を聴く
リズム、メロディ、ハーモニー、ことば、こころ、サウンドや音色、パフォーマンス、アティテュード、すべての資源としてのフィジカル、テクニック、誠意、真心、魂、叫び。すべてがここには揃っていると思わせる傑作です。ただ1曲を聴いただけで涙がでました。たまにそういうことがあります。
たった一行で恋に落とすラインがあります。そうそうあるものではありません。
“必ず手に入れたいものは 誰にも知られたくない”(作詞:飛鳥涼)
夢は口にすると実現すると云う人もいます。「有言実行」という表現が合致しそうです。
“必ず手に入れたいものは 誰にも知られたくない”のラインは、陳腐になり下がってしまいそうな語彙で例えるなら「不言実行」に通ずる姿勢を感じます。でも「不言実行」と聞いても私の心の針はピクリとも振れませんが、“必ず手に入れたいものは 誰にも知られたくない”といわれたら、ズキュゥーーンと44マグナムで心を撃ち抜かれた気分になるのです。あなたは正確無比なスナイパーであり、世界最高のハートブレイカーですか。
5分に届きそうな、所謂「CD時代」のサイズ感を有した楽曲『YAH YAH YAH』ですが、その展開は非常に軽快です。前述の痺れる一行に続けて“百ある甘そうな話なら 一度は触れてみたいさ”(作詞:飛鳥涼)と、「不言実行」テイストなストイックな基本方針を提示しておきながら理想的な態度を揺るがしにくる世の数多の甘言・誘惑を示唆するラインを続け、ことばの振れ幅で私の心を揺さぶります。ここまでで4小節+4小節=8小節。
続けて“勇気だ愛だと騒ぎ立てずに その気になればいい”(作詞:飛鳥涼)たった4小節の展開で、一気にボーカルの音域をオクターブすこんと上げてしまいます。この展開の直球ぶりはプロ野球だったら時速160km超えのストレートでしょう。信じられない速さで私に結論を流し込みます。この段がすでに「サビ」のような興奮を備えています。でもコーラスは別にある。“YAH YAH YAH”のラインです。
コーラスというからにはみんなで歌えるものである必要がある。個人の魂の叫びが、集合と共鳴するカタルシスです。ASKAさんの個人の声の響きと、CHAGE and ASKAとしての声の響き、バックグラウンド・ボーカルの響き、オケ・バンドすべてが集合し高めあって肩を叩きあいうなずきあい、個を犠牲にすることなく張り合い競り合い、殴り合うような闘志で決起するのです。素晴らしい。コーラスとはこうあるべきです。
ズンズンズンズン……とギター・ベースのエイトビートのダウンストロークが真っ直ぐな押し出しを演出するかと思えば、ピアノのストロークは16分割の裏をトリッキーに刺して来ます。異なる多様なリズムの波状攻撃、揺さぶりに私は心をやられてしまいます。硬質なドラムスが私の心臓を司るように、聡明で透き通った響きで秩序を敷きます。
フェード・アウトに甘んじることのないエンディングが圧巻です。主題の“YAH YAH YAH”フレーズの上行音形、メインボーカルは主和音の第3音(FメージャーですからFの長3和音の第3音:A、ラの音です)で天空に浮かぶ理想に拳を突き刺します。最高の調和の響きで荘厳な結尾です。
天空に浮かぶ幻の理想……とつい口からこぼす私を、奮い立たせます。その拳は天空に届くのです。今は幻に思えたとしても、百ある甘言を打ち砕き続けて至る境地を現実たらしめるのです。
この拳で叩き上げるのです。
青沼詩郎
CHAGE and ASKAのシングル『YAH YAH YAH』(1993)
『YAH YAH YAH』を収録したCHAGE and ASKAのアルバム『RED HILL』(1993)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『YAH YAH YAH(CHAGE and ASKAの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)