軌道の必然の全肯定

まるでロックンロールというフォーマットに初めて出会った衝動そのもののような新鮮さで駆け抜けます。”今までの君はまちがいじゃない”。自分が歩んで来た道の必然性は、自分が最も理解しているはずです。それでもくよくよ悩んだり迷ったり後悔したりすることがつきものであるのも人生の理(ことわり)でしょう。だからこそ、己は己に対して、お前間違ってないよ! 分厚い手のひらで来世まで轟くような鮮烈さで背中をブッ叩き、激励してやらねばならないのです。

佐野元春『約束の橋』イントロモチーフの採譜例。冒頭4小節に対して後続の4小節で一段ジャンプした地平に乗っかる音程。のちに、このフレーズを佐野さんのボーカルフェイクがトレースするシーンが出て来て胸熱。

イントロから、テクスチャがはっきりしています。そのときに見せるべきもの、光のあてかたが明瞭なので聴いているほうもどこを聴いて良いか迷うことがないんです。ビートに、鮮やかに光を受けて軌道を描くメロディに、言葉のリズムに身を任せれば良いんです。

京都音楽博覧会2025に佐野元春 & THE COYOTE BANDとして出演した際(10月11日)にも演奏され、会場の一体感から、現在に至って演者にもリスナーにも尊重されている重要なレパートリーであるのがうかがえました。

約束の橋 佐野元春 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:佐野元春。佐野元春のシングル、アルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』(1989)に収録。ドラマ『二十歳の約束』(1992、フジテレビ)主題歌となり再録バージョンのシングルがリリースされる。

佐野元春 約束の橋(アルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』2013年再発Blu-specCD2収録)を聴く

頭からカウントの声が入っています。演奏が良いんです。チームでロックをやっている和が、陽のエネルギーの合算が音に現れているように思えます。どこまで一発録音したのでしょう。リードボーカルも一緒に録ったのかな。すべてがひとつの方向に赴いている、同じビジョンを共有しているマインドが演奏に躍動を、まっしぐらな慣性を与えます。

左側にアコースティックギターのストラミング。華やかな音色で明瞭でガッツにあふれるドラムのスピードと息がぴったり。ズズズズ……とベースの8分割はまっしぐらな慣性の肝です。ズンズンズン……とエレキギターのブリッジミュートが街道に若木を生やします。

ブラスの音が明るいキャラクターを加えます。ピアノの音色は記憶の扉を叩く音。ヴァースが繰り返されるところからのピアノのカウンターメロディが私の視線を動かします。ホウェィーーーーー……と、オルガンの伸び、輝きながらゆらめくトーンもスピードを合わせた伴走者。バンドメンバーみんなが同じ街道を、同じスピードで、同じくらいの力強さで、はつらつとハイタッチしながら邁進していくような潔さが爽やかなんです。真昼間の海沿いの街道かなと思うくらいにあかるい。まぶしいけれど、自分もそこにいることを許される寛容さがあります。

次第に佐野さんのボーカルのオーバーダブでしょうか、ハーモニーパートのボーカルが加わってきます。佐野さんの歌声には独特の高揚感があるんです。音律の定規にはめたようなピッチを超越している。佐野さんの言葉が固有の名詞も時代も地域も超越して魂に直接響いてきます。

ビートもコード進行も至ってシンプルなのです。ロックンロールチームで場を共有し、息を合わせるために必要な意匠なのだと思います。いかに線路を逸脱してやるか、見せ場を競うような奇天烈な魅力を志向するバンドがあってもいいと思いますが、このバンドはそうじゃない。誰もが己がスピードで全力で走った結果が、その結果としてばちっとハマるような必然性と自然の導きがあります。

”今までの君はまちがいじゃない 君のためなら 七色の橋を作り 河を渡ろう”(『約束の橋』より、作詞:佐野元春)

それぞれの光の波長は、それぞれでありながら、不可分でグラデーションで接合した一体のものです。それを私は虹と呼びます。まるでこのバンドの音を聴けば、それそのものだと悟ります。虹の音、レインボウ・サウンドなのです。

自分は自分のために、お前、間違ってなんかいないよ!と背中を叩いてやる必要があります。自分は他人の鏡写しなのです。誰しも、他者と不可分でグラデーションで、接合して生きています。そうだ。七色は……虹は、人間そのもののことなんだと思わせます。わたしのなかにはあなたがいるし、その逆も然り。その励ましは他人のためであるほどに己のためであり、その逆も然り。

Apple Musicでミュージックビデオが配信されているのが確認できます。

佐野元春 & THE COYOTE BANDの約束の橋(アルバム『HAYABUSA JET Ι』収録)を聴く

原曲のAキーからGキーに変え、響きの地平が広くなったところに迎える野生的なドラムのタムづかいやタンバリンの16ビートがバチっとはまります。

佐野さんの歌声はますます透明に、繊細に、哀愁と深みを増します。ボーカルの質感、Hey! とか歌詞のない部分のフェイクとかいった細部、各パートの演奏にCOYOTE BANDの固有の空気が克明に抽出されているのと同時に、アルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』の時のバンドメンバーと時代や個人が違えど、ロックに向かい、ロック(そのもの)になるアティテュードの永遠の青さ、変わらなさが尊い。ここのときここのみでやれる全力疾走を常にやっているだけなんだ。それが俺が生きるってことなんだよと、そんな主人公が佐野さんの歌には生きている気がします。そいつに励まされて私も今日を(今日も)走り抜けようと思えるのです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>約束の橋ナポレオンフィッシュと泳ぐ日

参考歌詞サイト 歌ネット>約束の橋

佐野元春 : オフィシャル・ファンサイト – Moto’s Web Serverへのリンクナポレオンフィッシュと泳ぐ日 アルバムの解説、約束の橋ほか各曲の歌詞やコード譜が閲覧できます。

『約束の橋』を収録した佐野元春のアルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』(1989)

『約束の橋 (New Recording)』を収録した佐野元春 & THE COYOTE BANDのアルバム『HAYABUSA JET Ι』(2025)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】軌道の必然の全肯定『約束の橋(佐野元春の曲)』ギター弾き語りとハーモニカ』)