風を切る胆力
ブレッド&バターのライブアルバム『BREAD & BUTTER -LIVE-』に2コーラスのコンパクトな構成に縮めたパフォーマンスが収録されていて3分未満でも実演できるボリュームの歌詞サイズです。
「野生の馬さ」をリフレインするサビのメロディが耳に残ります。「ドーソレーソファミードー(移動ド)」というおおむね6拍(1小節半)くらいに字脚が収まり、音階音のⅴやⅰを足がかりに跳躍する旋律音程が審美的。
自由詩のような韻律に秩序のある定形詩のような野生の馬の肉体美を思わせるすっきりとしたシェイプの詩の母音を伸ばして複数の音程を経由しゆったり情景を紡ぎます。
4/4拍子を基に、ところどころに2/4あるいは前後の小節と結合した複合拍子を含むイレギュラーな小節数の単位をはさみます。さらにはサビ終わりに一定範囲(およそ4小節か)の拍子の変更といった音楽の意匠上の秩序すらも呼吸して見えます。常に天敵などに対する警戒心や注意のアンテナを張り、刻々と変わる状況に対応すべく機敏に動いてみたり、あるいは雄大な地平線のようにどっしりのんびりと構えてみたりと、拍子やメロディ、和声の進行・展開には実に豊かな起伏・緩急が仕込まれています。
表層上は「イイ歌だなぁ」と楽曲に軽く触れる者の心に清涼をもたらしながらも、分析好きのもの好きが近寄ってまなこを擦ってみると、ソングライティングの工夫面での情報量が多いのに驚嘆します。
タイガースのメンバーとしても人気を博したであろう岸部シローさんをフィーチャーした本曲を収録したアルバム『Moonlight』はアルバム収録曲全体にわたってそうした音楽的フックや態度・性格の振れ幅が仕込まれていて私を楽しませるとともに、野生の馬のようなたくましさ、風を切るミュージシャンとしての自由な胆力を示します。
配信ですと2コーラスで短めにまとめたブレッド&バターのライブバージョンが聴くことができると思います(2026年3月時点)。シローとブレッド&バター名義のオリジナル音源はCDなどの円盤頼みになるかもしれませんが、ぜひ求めて聴いてみてください。
野生の馬 シローとブレッド&バター 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:岩沢二弓。シローとブレッド&バターのアルバム『Moonlight』(1972)に収録。
シローとブレッド&バター 野生の馬(アルバム『Moonlight』CD収録)を聴く
中央でリードボーカルをとっているのは……シローさんなのでしょうか。朗々とした雄大なこころを感じる歌唱です。
アコギのストラミングがリズムをリードします。このアコギと歌だけで成立しうるでしょう。左のバランスが強いですが右にもアコギトラックがいます。ワイドで豊かな響きとリズムのアコギでボディを成します。ピアノもともない音域とモチーフの幅を成します。
左右にハーモニーのボーカルがひらきます。このトラックがブレバタのお二人の声でしょうか? ともに、リードボーカルより上の音域で字ハモします。
2拍子あるいは6拍子の複合が頻繁にやってくる楽曲のフックの多さに改めて驚嘆します。サビ終わりには6/8拍子が挿入される感じですね。ドラムは右に定位してパコっと軽やかで鋭いスネアのサウンドが特徴的です。キックのアタックがマイルドでベースはずうんと輪郭やアタックより響きのボディ役にまわっている感じです。
アコースティック楽器の響きと声が、歌詞が私に想起させる原野の情景と調和をなします。つくづくたくましいです。
青沼詩郎
ブレッド&バター公式サイト | Bread & Butter Official Site
『野生の馬』を収録したシローとブレッド&バターのアルバム『Moonlight』(1972)