夜霧よ今夜も有難う 石原裕次郎 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:浜口庫之助。石原裕次郎のシングル(1967)、同年公開で楽曲と同名映画の主題歌。

石原裕次郎 夜霧よ今夜も有難う(『石原裕次郎 ミリオンセラーアルバム』収録)を聴く

低いポジションで油のしたたるサクソフォンの威力が絶大です。低く質量感が分厚いのですが息がしゅわしゅわと管のそこここから抜ける付帯音が生々しく、肉迫して収録されています。息の波で強烈にゆらめくビブラートがなだらかです。このサックスの色気があたえる印象が繰り返しますが絶大。

石原さんの歌唱もまたこのサクソフォンの色気に負けず劣らず、質量がすごい。太く暖かいです。息をかるく吹かせる余裕に、声帯が紳士的に反応している……そんな風に感じる、マイク乗りの良い「大歌手」然とした歌唱が堂々の色気と艶です。

左トラックでサックスが石原さんの歌うリードボーカルのフレーズのあいだに合いの手をいれます。Aメロを抜けてしずまったかと思うと、ミューテッドトランペット、それからトロンボーンのような低域寄りのあたたかい音色の金管楽器の描線が視界を覆います。またストリングスの高域のヒィィ……という描線も含めて、「夜霧」の主題そのものです。

ピアノが広い酒場で遠くからぽろぽろと聞こえてくるかのよう。甘くメロウな音色が断続的に呼応します。ビブラフォンのようなフンイキある音色が隠し味的にいるのか、私の幻聴でしょうか。

エンディングのベースの5度音、6度音を反復する音程がペンタトニック的。『北風小僧の寒太郎』など思い出します。

夜更けの街に うるむ夜霧よ

知っているのか 別れのつらさ

いつか二人で つかむ幸せ

祈っておくれ 夜霧 夜霧

僕等はいつも そっと言うのさ

夜霧よ今夜も有難う

『夜霧よ今夜も有難う』より、作詞:浜口庫之助

この曲は、同名かつ石原さんが主演した映画のアイデンティティになっているようです。消息を絶ったプロポーズ相手と再会、そのとき相手が連れていた新しいパートナーを海の向こうに逃すために身をていする……そんなあらすじのようなのですが、そんなストーリーを重ねるといっそう立体の奥深さを増すソングライティングです。

プロポーズ後に消息を絶ってしまう別れのことをいっているようにも思えますし、相手が連れてきた新しいパートナーとの未来を祈るこの瞬間の別れのこと、自分とは別の二人の未来のことをいっているのか。

辛いこと、見たくない現実を隠すのが夜霧なのか。隠すというほど、なにもかも見えなくさせるようなものでない気もします。

ほどほどに、「どぎつい」知覚をやわらげてくれる……それが夜霧なのでしょう。

適量のアルコールとか。友達とのつきあいとか。ペットとの交流とか。

人生には、夜霧のような存在の助けがきっと必要なのです。それに感謝を表明する歌。渋いしかっこいいし紳士です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>夜霧よ今夜も有難う

石原さん主演の同名映画、あらすじを読むといたたまれない思いでいっぱいになると同時に、主人公のオトコマエぶりに痺れます。好きになった(どころか結婚する予定だった)が消息を絶った人と4年ぶりに再会し、そのときその人が連れる新たな別のパートナーとその人の幸せのために身を挺して闘えますか? あらすじだけでは登場人物の気持ちの機微がわかりかねます。

参考歌詞サイト 歌ネット>夜霧よ今夜も有難う

石原裕次郎公式ファンクラブ「裕次郎倶楽部」へのリンク

『夜霧よ今夜も有難う』を収録した『石原裕次郎 ミリオンセラーアルバム』(1971)。ミリオンヒットしたシングル曲を集めたアルバム、という意図でつけられたアルバムタイトルなのか、頭が下がる思いです。本作が彼の初のCD化だったそう。参考>HMV&BOOKSサイト

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『夜霧よ今夜も有難う(石原裕次郎の曲)ギター弾き語り』)