夢の駅 THE BLUE HEARTS 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:甲本ヒロト。THE BLUE HEARTSのアルバム『BUST WASTE HIP』(1990)に収録。

THE BLUE HEARTS 夢の駅(アルバム『BUST WASTE HIP』2010年リマスター版CD収録)を聴く

THE BLUE HEARTSの作風にも幅があり色々で魅力ですが、この『夢の駅』もまた短編のおとぎ話……『世にも奇妙な物語』にでも出てきそうな、不思議だけどちょっとほっこりとして、悲しみのなかに幸せの本質を垣間見るような気味のよさ、神秘を目撃してしまった感動と震えの畏れを感じます。

発車のベルが鳴り 一つ駅を越えた

通り過ぎるのは 早すぎたのだろう

泣いている人が ホームで手を振った

本当のお別れの アナウンスが流れる

『夢の駅』より、作詞:甲本ヒロト

災害や事故や傷病なのか、その地域や国や人種の平均寿命的なものを待たずに早く逝ってしまう人が数多います。“通り過ぎるのは 早すぎたのだろう”のラインが、なんだかそういう早逝してしまった友人や近親者への哀悼のような響きで私に降りかかるのです。どこまで行けるかわからないけれど、一つひとつの駅に降りて丁寧に街の景観や地域性を観察しながら歩むのが人生であるはずなのに……車両は行ってしまう。止まる予定のなかった駅に、アクシデントか何かで臨時で止まることもあれば、止まるはずだった駅を通り過ぎてしまうアクシデントも世にはあるのか……わかりません。

ピキピキとピックベースのアタックとパターン。これだけでもレゲエのスタイルを強く印象付けますが、左右のピアノとエレキギターのアップビート(裏打ち)がただでさえ明らかなスタイル性の輪郭をさらに太く鋭くはっきりさせます。裏打ちのリズムや間奏のピアノソロのサウンドにはなんだかThe Beatles『Ob-La-Di, Ob-La-Da』を思い出します。

ツィーン……と物寂しく、一発だけでトライアングルが鳴ります。何かの予鈴なのかな?

『お待たせしました。次の駅は

幸せばっかりの 夢の駅−。』

『夢の駅』より、作詞:甲本ヒロト

「パンパンパーン……」かヴァースかどちらかのパーツしか出てこなかったようなミニマルな意匠でやってきた曲が展開するのはこの部分です。事前に秘密の片鱗を漏らしてしまうみたいにちょっとだけ鳴いたトライアングルですが、逆サイドに振った鈴の音色とともに、高らかに出発あるいは到着を歓迎する、あるいは嘆き、泣きわめき散らすように私のリスニング空間をかき回します。

『夢の駅』の鈴の音を聴いて思い出すことがあります。アニメーションや映画などを見ていると、何かが起こったり新しい事物が登場する直前、その予兆などを思わせるシーンで、「リン。」と鈴の音が鳴って演出する、効果的につかわれることがあるように思います。

鈴って、そうした、人の手で左右できる範囲を超越した何かの到来を象徴するサウンドに思えるのです。

手を叩いた「パン」という破裂音は場面の切り替わりなのか。「パンパンパーン……」という稚拙にも思える印象的なリードボーカルと、神妙な哀悼が駅ごとにザッピングするような……それでいて音楽的にはひとつの線路のように統一感があるような独特の魅力があります。そしてエンディング手前で列車は車庫に入ってしまうみたいに、明らかに景観の違う局所に突入します。「お待たせしました」……のところですね。普通のダイヤでは決して行けない、幻の臨時列車だけが入庫する“夢の駅”を想像します。必ず誰でも、人生(の最後)で一度だけ入庫するのです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>BUST WASTE HIP

参考歌詞サイト 歌ネット>夢の駅

THE BLUE HEARTS 徳間ジャパンコミュニケーションズサイトへのリンク

『夢の駅』を収録したTHE BLUE HEARTSのアルバム『BUST WASTE HIP』(オリジナル発売年:1990)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『夢の駅(THE BLUE HEARTSの曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)