夢の中で会えるでしょう　高野寛によるキングトーンズへの提供曲　夢に目を向ければ

まえがき

内田正人さんのソフトでスムースなリードボーカルがなんとメロウでロマンティックなことでしょう。メロディの発端は作曲者の高野寛さんが幼少期にテレビで親しんだというキングトーンズの『グッド・ナイト・ベイビー』へのオマージュ、コード進行はシュガー・ベイブ『DOWN TOWN』へのオマージュだといいます。元々『DOWN TOWN』はキングトーンズへの提供曲となるはずだったという逸話もあります。キングトーンズへの提供曲『夢の中で会えるでしょう』は結果的には高野寛さんのバージョンの方が先の発売になります。高野さんバージョンはエレキのカッティング、エレクトリックピアノ、オルガンなどベーシックとウワモノにエレキシタール？のアクセントが効いたアレンジで坂本龍一さんが編曲されています。キングトーンズ版の『夢の中で会えるでしょう』の編曲はシュガー・ベイブメンバーの村松邦男さん。新旧の楽曲を通した時代を超越した人脈の巡り合わせそのものが「夢の中で会えた」みたいでドラマティックです。

夢の中で会えるでしょう　曲の名義、発表の概要

作詞・作曲：高野寛。高野寛のシングル（1994）、アルバム『Sorrow and Smile』(1995)に収録。キングトーンズへの提供曲で、キングトーンズのシングル、アルバム『SOUL MATES』（1995）に収録。

キングトーンズ　夢の中で会えるでしょう（アルバム『SOUL MATES』収録）を聴く

このソフトなリードボーカルの唯一無二性ときたら。ほかに似ているものが私は思い浮かびません。みっちりとまとまりと質量があり、輪郭も明瞭極まります。それでいて響きが軽妙洒脱で、ポジションが高いのです。華がありどんなバンドに乗っても浮かび上がり乗りこなすことでしょう。

マイルドで丸い音色のベースのニュアンスがやさしい。ドラムの頼もしく安定した質感の印象を手伝うのはなんだろう、右側定位にフロアタムみたいなタイコが恒常的に鳴っている？ような気がします。ハイハットの打点がただの８分割の定規をしきつめるような感じでなく、常にリズムで歌っている感じが巧妙。

個別の線がわかる頭数の絞られたストリングスの描線がまた気高くて孤独で儚い情感を鼓舞します。

バックグラウンドボーカルのオブリがやさしい。微笑んで歌っているみたいな明るく優しい声色です。ロマンティックでセンチメンタルな曲想に寄り添う博愛を感じます。

左のエレキギターのカッティングのなんとクリーンな音色のことか。軽やかで撫でるように儚いカッティングです。右にはアルペジオのギターが対になります。編曲者の村松邦男さん自身の演奏なのかどうか未確認ですが彼の遺伝子を感じるところでもあります。

高野寛　夢の中で会えるでしょうを聴く（アルバム『Sorrow and Smile』収録）

曲の展開に沿って変化し繊細かつ表情に富んだ高野さんのリードボーカルをバックグラウンドボーカルのこれまた曲の展開に合わせて豊かなレイヤー、多様な音価で彩ります。

ベースの重心が低くてクラブっぽいモダンなサウンドです。細かい休符がグルーヴィーで緩急効いています。リズムトラックはテシっとタイトで歯触りと幅感の塩梅良いスネアが印象的です。シンバルのオープンストロークとタンバリンのかけあわせが華やか。ヒュルルとオルガン、香水が匂いたつみたいなエレクトリックピアノがオシャン。エレキギターの音程のないブラッシングをワウで添えるみたいなトラックが右に、左に単音リフレインと高めのポジションでのコードカッティングをスイッチするトラック。サビになると左のエレキの定位と似た定位にエレキシタールみたいな音色がポインポインと妖艶な描線を添え、サビ明けのAh〜というバックグラウンドのオープンなサウンドとかけあわさって聴くもののエモーションを昂らせます。